忍たま四年い組、平滝夜叉丸。成績優秀、容姿端麗。学園内の噂じゃナルシストだの自惚れ屋だの言われてるけど、その印象が薄れるほど本当はとっても優しい性格の彼。わたしの幼なじみ。そしてわたしの好きな人でもある。

幼い頃から綺麗なものが好きで美しかった滝夜叉丸とは正反対だったわたし。父が忍者だったこともあった所為か、昔から塹壕を掘ったり猛獣と戦ったりと、血の気たっぷりで勝気な女の子らしくない女の子だった。よく泣く子だった滝夜叉丸をわたしが守らなきゃって思っていた時期もあったっけ。今ではわたしより優秀な忍者になりつつあるからもう守る必要はないけど。

そんな滝夜叉丸への恋心に気づいたのはくのいち教室二年生の終わり頃。わたしは一年以上片思いをしているのである。その恋心に気付いてからは、女の子らしく見た目や仕草にも気を使うようにした。だから、幼かった頃よりは少し女の子っぽくなった筈。しかし、そんなわたしは…

「うわ…っ!」

ズシンと鈍い痛みがお尻の骨に響く。

「いたた…」

誰が掘ったのかもわからない落とし穴に落ちた。わたしは、男勝りな上にとても鈍臭い人間であった。
落とし穴にハマるのは本日2度目。昔は落とし穴に落ちたとしても全く気にしなかった。落ちたら登ればいいし。でも、どんくさい美しくない女、滝夜叉丸は嫌なんじゃないか、とそう思ってからは落とし穴に落ちる頻度も余計増えたっけ。こんな自分が嫌で頭を抱えて項垂れる。


「サツキ、また落ちたのか?」

穴の上から聞きたかった様で聞きたくなかった声が聞こえる。見上げれば、やっぱり滝夜叉丸が心配そうにこちらを見下ろしていた。こんな姿、滝夜叉丸に見られたくなかったのに。
幸い落とし穴はそんなに深くなかったため、簡単に脱出出来そう。差し出された滝夜叉丸の手を掴めば、グッと力強く引き上げてくれる。
あー滝夜叉丸が来る前に登っておけばよかった。

「ありがとう、滝」
「お前は危なっかしいな本当に」

呆れたように眉を下げながら、わたしの忍装束に着いた土を払ってくれる滝夜叉丸。いつものことながら、やっぱり滝夜叉丸は優しい。こんな時でも、滝夜叉丸の優しさと近くなった距離に少し照れてしまう。

「どうした? 顔が赤い様だが」

少し屈みながらわたしの足元の土を払ってくれている滝夜叉丸。伏せ目がちな彼のまつ毛が美しい陰りを作る。目線が逸れた瞬間に平常心を保とうとするが、それは叶わず目が泳いでしまう。

「え! あ〜さっきまで走ってたからかな!」
「そうなのか?」

確認するようにわたしの顔を見上げてそう言った。もみあげのサラサラヘアが色っぽく滝夜叉丸の頬に寄りかかっている。わたしの頬はもっと熱くなる。だ、ダメだ…! そんな、きれいな顔で見上げられたら…

「う、動き足りないからもうちょっと走ってくる! バイバイ!」
「全く…サツキは七松先輩にでもなるつもりか?」

堪らず滝夜叉丸から距離をとり走り出す。後ろから、暗くなる前に長屋に戻るようにな、と滝夜叉丸の声が聞こえた。そんな滝夜叉丸を気にかけれるほどわたしには余裕がなかった。早く、この熱を冷ましたい…!



 | 

戻る