昼下がりのくのいち教室。噂話に花を咲かせる少女たちを横目に、わたしは窓際に腰かけぼーっと滝夜叉丸のことを想っていた。
滝夜叉丸は今何をしているのだろうか、また乱太郎達に自慢話かな。それとも、千輪を練習しているのかな。
彼のことを考えていると空耳か、彼の名前がどこからか聞こえた。身体は素直に反応するように、耳が勝手にその会話を盗み聞きする。傍から見たらわたしの耳は大きくなってそうだ。

「ごめん! ちょっとその話、詳しく教えて!」
「え…、あ〜サツキって滝夜叉丸の事好きなんだっけ」

居ても立っても居られず、滝夜叉丸のことを話していたくのたまたちの会話に割って入ってしまった。たまに噂される滝夜叉丸だけど、滝夜叉丸のことなら何でも知りたい気持ちがあるため、ついつい頭を突っ込んでしまう。
恥ずかしながらも頷くと、そのくのたまたちは気まずそうにアイコンタクトをしている。

「いい話でないけど、いいの?」
「滝夜叉丸の話なら、なんでも知りたい」

身体をやや乗り出し気味でそう言ったわたしに、くのたまはあきらめたように眉を下げて口を開いた。

「この前いつものように食堂でランチ食べてたら突然滝夜叉丸に『私に気があるだろ?』なんて言われちゃって。そんな分けないでしょなんて言っても、『いつもその席から私のこと見てるだろう』なんて言って食い下がられるの困ってたの」
「そんな事が…」

まったく困っている様子ではぁ、とため息をつくくのたまとばっちり目が合った。なんとも言えない悩みに、勝手に気まずさを感じたわたしは俯きがちに自分の手を見つめる。「何とかしてよ、サツキ」というくのたまの言葉にわたしは、ハハと乾いた笑いしかできなかった。
わたしはどんな顔をしているのだろう? 正直とても羨ましかった。わたし、いつも滝夜叉丸と同じ机で食べてるのに何も言われたことないけど…?

「それ私もある〜! 怪我して医務室に行ったら、寝込んだ滝夜叉丸がいて自分の為に見舞いに来てくれたなんて勘違いしちゃっててさ〜」
「あ、私裏庭の通路で滝夜叉丸見かけた時ファンって勘違いされた!」
「アタシなんかタカ丸さんに髪型変えて貰っただけで、話しかけて来られた」

そんな話をしていると、我も我もと滝夜叉丸に勘違いされたというくのたまたちが話に入ってきた。あるある〜なんていう話はまだ続き、くのたま教室はかつてないほど盛り上がっていた。
それに反比例して、ないない〜なわたしの元気はなくなっていく。

「ちょっと自惚れすぎよね〜」
「というか、自分の一番近くに一途なサツキがいるんだから早く気づいてあげればいいのに」

鼻がツンとして、じわじわと目に涙が溜まっていくのがわかる。止めようと瞬きをするけど、ついには溢れだして涙が止まらなくなってしまった。みんな言いたい放題言っちゃってるけど、根掘り葉掘り聞いたわたしが悪いのに泣くなんて卑怯だ。
でも、これだけは言っておきたい。

「あっ、サツキ、ごめん…言いすぎたかも…」
「滝は、勘違いしちゃうところがあるかもしれないけど、とっても努力家で優しい人なんだから…だから……」

滝夜叉丸が悪く思われていることと、わたしだけ自惚れられたことがない虚しさで涙が溢れて止まらなかった。みんなが謝って慰めてくれるけど、なかなか泣き止むことができない。
わたし、滝夜叉丸に女の子として見られてないんだって、改めて思い知らされたんだ。




 | 

戻る