「純〜、なんか甘いもん持ってる?」
『今プリン三つも平らげたのにまだ食べる気ですか?』
「食うよ」
『…病気になりますよマジで』
「大丈夫。僕最強だから」
『そのキメ顔腹立ちますね…』

出張帰りの新幹線。
必要経費高額王の五条悟がいるだけで、自分も高専持ちでグリーン車からグランクラスを利用できるのは願ったり叶ったりだ。一車両に18席しかない内の2席の予約を軽々取ってしまうあたり、この男はどこまでいっても五条家当主の悟様なのだと実感する純。まあ確かに190pの長身ボンボンが普通車両やグリーン車の椅子に座るイメージが湧かず、似合わね〜と内心呟きながらバッグの中から紙袋を取り出した。

『こんなこともあろうかと、余分に買った秋田銘菓金萬ならあります』
「うわっ、流石は僕の彼女!抜かり無いね〜っ」
『これあげるので静かにしてて下さい』
「あ、そうだ純。僕さっき懐かしい写真見つけたんだよ」

ホラッ。と見せられた携帯の画面に映っているのは、高専時代の自分と五条。今とさほど変わりはないが、10代特有のトゲトゲしさと世間知らず感が否めない。紙袋を受け取り金萬を頬張った五条が、「ウケるね〜」と別の写真を眺めて笑う。

「お前が初めて一級呪霊の討伐任務に派遣された時の写真」
『任務補助って口実で仕事サボるの、今も相変わらずですね』
「可愛くて美人な彼女の安否が心配なんだよ」
『ただご当地スイーツ満喫したいだけじゃん』
「まあね〜。でも、純と一緒にってとこに意味があんの」

二個目となる金萬を取り出し頬張る五条にまだ食べんの?と顔を引き攣らせる純。そういえば、一級呪霊討伐の任務地も今回と同じく秋田県だったことを思い出し当時の記憶を掘り起こす。隣でへへへっと笑っている五条の携帯画面を覗き込むと、そこには当時宿泊したホテルの部屋で彼の丸縁サングラスをかけながらビール缶を片手にハメを外している馬鹿な自分が写っていた。おいちょっと待てとアラームが鳴り響き、五条の手から携帯を奪い取りスクロールしていくと…。

『(ギャァァァァァァッ!!!!)』
「いや〜撮っといてよかった〜」

とんでもない写真が残っていた。

**

20XX年、某月某日。
秋田県北秋田市某所にて、二級仮想怨霊(名称未定)による非術師3名の呪殺を確認。緊急事態のため京都校より二年生の二級術師を一名派遣。現地入りの定時連絡以降一切の安否、消息不明がとなり、この案件の等級は一級へと引き上げられた。

「一般人が三人、二級術師が一人。四人も死者が出てる案件に一年の派遣はあり得ないだろ。誰が橘華を派遣した?」
「安否、消息は不明であるが、まだ死んだわけではない」
「左様。どのみち術師は人手不足が常。手に余る任務に当たらねばならないことなどいくらでもある。それに…橘華純の一級昇級は決定事項だ。今回の任務は同等級という判断で割り当てている。学生の貴様が我々の決定に異論を唱えるな。立場を弁えろ、五条悟…」

制服のポケットに両手を突っ込み、サングラス越しに上層部の老人たちを睨みつける五条。任務を終え高専に戻って来た彼に今回のことを知らせてくれたのは、同級生の家入硝子であった。

「立場を弁えるべきはアンタらだろ」
「口を慎まんか五条!お前の言動は目に余るぞっ」
「目に余るのはあんたら老害の思考力。なんで分かんねぇの?」
「「…!?!?」」

くっせぇのは加齢臭だけにしろっつーのと悪態をついた五条が、ポケットにしまっていた右手を取り出しあろうことか上層部の人間に向かって中指を突き立てた。今回の件は人手不足だのなんだのと表向きな御託を並べて仕組まれた五条悟への嫌がらせ…というよりも、彼の過激な言動に対し圧力をかけるための計画。
"五条悟側"につけば、こうなるのだという彼に近しい純を使っての見せしめ。

「次橘華純に手ェ回してみろ…。ここにいる奴ら(ゴミ共)全員、マジでぶっ殺す」

本物の殺意がこもった六眼が、この場の空気を凍りつかせた。




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