「悟君たち、まだしばらく話し終わらんと思うよ」
『…?』
「ほんま久しぶりやなぁ、橘華純ちゃん」

御三家の中で、五条家以外との付き合いはほぼ皆無。

「子供らがえらいべっぴんさん来はった〜言うて騒いどったわ」
『……(禪院直哉)』
「悟君が見初めただけあるわな。実力もお墨付きらしいし」

私の「御三家嫌い」を考慮して、五条先輩がずっと遠ざけてくれていたから。

『悪いけど、貴方とは話すなって言われてる』
「ハハハッ。それ悟君に言われたんっ?おもろっ」
『………』
「俺は今回の話し加わる気ないんよ。流石に混血・・はアカンもん」
『嫌味?…同じ御三家の人間でも天と地の差ね』
「なん、気ぃ強いな。悟君の後ろ歩ける女の子思っとったわ」
『そんな窮屈な価値観で生きて来たように見える?』
「ここ日本やで。ルールに則らな弾かれるんとちゃうの」
『……(五条先輩の手前、今は我慢だ)』
「だんまりか。…ま、ええわ。ちょっと付きおうてよ」
『は?』



「純はさ、御三家の人間とは極力関わらない方がいいよ」


私を人間として、呪術師として育ててくれた恩師の言葉だ。

「直哉君さ〜、マジで二度目ないよ?」
「堪忍してや悟君。ちょっと茶しばいただけやん」
「僕は近付くなって言ったんだけど?」
「怖いなあ。人ん家の敷居跨いどいてよう言うで」
「先に一線超えたのそっちだろ」
『………(最悪だ!)』

高専入学後、初めて関わった御三家の人間が、今目の前で禪院直哉の胸ぐらを掴んでいる五条先輩だった。
当時は恩師の言葉通り、身勝手で傲慢な態度や難あり過ぎるその性格に振り回されて散々だったけれど今は…。

「価値があるって判断した瞬間に手のひら返しやがって」

この人でよかったって、心底思う。

「そりゃあ五条家当主の正式な嫁さんやったら話別やん」
「あんなふざけた誓約に僕が乗るとでも?」
「それはポンコツ兄さん方が言うたことやろ。逆に俺は忠告してやったんや。"異人呪術師"の混血混ぜたら御三家の名折れやって」
「あ"?」
「純ちゃんえらいべっぴんさんやし実力も十二分。おまけに悟君のバックある分"あの姉妹"より幾分マシと思うけどやな…血筋がアカンやん。御三家の血ぃも引かん、良家の生まれでもない、どこぞの娼婦の母親から生まれてきたかも分からん女とかアウトやで」
『…………』

血筋を大切にすることは、なにも悪いことではない。
その一族の歴史や伝統、受け継がれてきた力に誇りを持って生きることも。時代に沿わない価値観の中で生きることも、決して間違いじゃない。
ただ、中には血筋や一族というものに固執してしまうあまり、自分たち以外を受け入れられず、共存という道を断ってしまう人たちが一定数存在する。彼らの価値観や思考の裏側には、歴史や環境といったすぐには取り除くことのできない根深い闇がある。
私が生まれた国でも、そうゆう闇が蔓延してた。
だから、目に見える形でしか判断しないような差別が嫌いだ。
恩師はそれを見越して、私に御三家とは関わるなと忠告してくれたんだと思う。関わらないことが正解なんだと思っていた時期はもちろんあった。

「…言動には気をつけろよクズ。消すぞ」

五条悟という人を、知るまでは。




*前  次#


○Top