「悟君たち、まだしばらく話し終わらんと思うよ」
『…?』
「なんやえらい揉めとったし」
『……』
「ほんま久しぶりやなぁ、橘華純ちゃん」
御三家の中で、五条家以外との付き合いはほぼ皆無。
「御三家嫌いな」純の気持ちを考慮して、五条がずっと遠ざけていたから。
「子供らがえらいべっぴんさん来はった〜言うて騒いどったわ」
『……(禪院直哉)』
「小ぃちゃい頃に一度会っとるんよ俺ら。覚えてる?」
『………』
「無視て。…あのさあ、純ちゃん」
『………』
「俺君んこと嫌いじゃないよ?強いし見た目もええし」
『………』
「でも一応。…勘違いせえへんよう教えたるわ」
客間の縁側にいた純の隣に腰を下ろし、見下すように笑った直哉が言う。
「悟君が後ろ盾にいるから言うて、あんま調子乗らんほうがええで」
と。何かを警告するかのように。
『…それ脅し?』
「ちゃうてちゃうて!五条家の嫁さん脅すわけないやん」
へらへらと不愉快な笑い声を上げ、偽善的な態度で接してくる直哉に心底嫌悪する。だから真希たちに嫌われるんだと内心唾を吐きかけながら、純が立ち上がる。
『…外で待たせてもらうわ』
「ちょお待ってよ純ちゃん」
『…………』
「俺は今回の話し加わる気ないんよ?」
『…………』
「いくら強くて利用価値があるとはいえ、禅院家ににそんな汚い血ぃ入れんでほしいし」
『私もこんな家に身売りすくらいなら死ぬわ』
「はは。引くわ〜。どの分際で言うてんねん」
『お前に言われたくないんだよクズが』
互いに牽制するかのように睨み合う。
部屋の空気がピリピリと緊張感を高めていく中、先に沈黙を破ったのは直哉のほうだった。
「ま、ええや。それよりちょっと付き合うてよ」
『は?』
*
「純はさ、御三家の人間とは極力関わらない方がいいよ」
純を人間として、呪術師として育てた恩師の言葉だ。
「直哉君さ〜、マジで二度目ないよ?」
「堪忍してや悟君。ちょっと茶しばいただけやん」
「忠告したよな?近付くなって。特にお前は」
「コッワ…。人ん家の敷居跨いどいてよう言うで」
「先に一線超えたのそっちだろ」
『……(最悪だ!)』
高専入学後、純が初めて関わった御三家の人間。それが今目の前で禪院直哉の胸ぐらを掴んでいる五条悟だった。当時はその身勝手で傲慢な態度や、難のあり過ぎる性格に振り回され嫌な思いもしてきたが、美化された思い出を思い返すと、
「婚約した瞬間に手のひら返しやがって」
五条悟と関わることができて本当によかったと、純は心の底から感じている。
「そりゃあ五条家当主の正式な嫁さんなられたら困るし」
「こっちは10年も前にお前らの所有権ぶん捕ってんだよ」
「それが口約束だったから今回こうなったんやろ?」
"そりゃそちらさんの落ち度やん。"と両手を上げ無抵抗の意を示したまま、直哉が事実を口にする。
「今さらだっつってんだよ。まじでなめやがって」
「しゃあないやろ、橘華家はもともと"禅院家の分家"やったんやから。それに、純ちゃんの本家入り命じたんはポンコツ兄さん方やろ。逆に俺は忠告してやったんや。そんな"混ざりもんの血ぃ入れたら御三家の名折れ"やって」
「あ"ぁ"?」
苛立ちを表情に乗せ、直哉を睨む。
「純ちゃんえらいべっぴんさんやし、術師としての実力は認めんで。だから兄さんたちも本家入りの話持ち出したんやろし。おまけに悟君のバック付き。けど血筋がアカンやん。分家して落ちぶれて、娼婦なった母親から生まれてきた女とかアウトやで」
『…………』
血筋を大切にすることは、なにも悪いことではない。
その一族の歴史や伝統、受け継がれてきた力に誇りを持って生きることも。時代に沿わない価値観の中で生きることも、決して間違いじゃない。
ただ、中には血筋や一族というものに固執してしまうあまり、自分たち以外を受け入れられず、共存という道を断ってしまう人たちが一定数存在する。彼らの価値観や思考の裏側には、歴史や環境といったすぐには取り除くことのできない根深い闇がある。
純が生まれた国でも、そうゆう闇が蔓延してた。
「直哉君さあ…」
だから、目に見える形でしか判断しないような差別が嫌いだ。
恩師はそれを見越して、純に御三家とは関わるなと忠告してくれたのだろう。関わらないことが正解なんだと思っていた時期はもちろんあった。
「今後純に関する言動には気をつけろよ?消すぞクズ」
五条悟という人を、知るまでは。
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