「んっ、このスープ美味いね〜」
「しゃけしゃけっ」
「恵って料理上手いんだな。極めてんの?」
「真希も見習わないとな」
「ああっ!?」
「…これ、橘華先生から作り方教えて貰ったんですよ」

スープ皿に入った純直伝のチキンスープを見つめながらそう言った伏黒の言葉に、2年組はなんの違和感も抱かずに「あいつ料理もできんのか」と各々の感想を口にしていく。そんな中で珍しく黙り込んだ五条に視線を向けると、案の定口をへの字に曲げて不服そうな表情を浮かべていた。

「なにその目」
「いや別に。"食べたことなかったんだ"と思っただけです」
「……(カチーンッ)」

伏黒の若干挑発的な言葉にスッと立ち上がった五条は、何も言わずに部屋を後にする。突然どこかへ行ってしまった教師の行動に疑問符を浮かべたパンダが、伏黒にその真相を問いかけた。

「悟のやつどうしたんだ?」
「便所じゃね?」
「おかか…」
「そうだぞ真希。食事中に」
「…どーせまた、橘華先生のとこでも行ったんでしょ」
「「「???」」」

思い出の味となったスープを啜りながら、伏黒は切長の瞳をゆっくりと伏せた。



『できたよ二人とも!』
「わぁ〜っ…すごくいいにおいっ…ケホッケホッ」
「スープ…?」
『チキンスープだよ』
「私純さんの手料理だいすきっ…」

古い団地アパートの、質素な台所がとことん似合わない純が作ったチキンスープを前にして、満面の笑みを浮かべた幼い津美紀の頭を撫でる。その隣で小さく咳き込みながら皿に盛られたスープから純へと視線を移した伏黒は、定期的に自分たちの様子を見に来るだけではなく、こうして世話を焼いてくれる純に対して「信頼」という感情が強まっているのを感じた。

『薬も置いとくから、ちゃんと飲んでね』
「はーいっ。食べよ、恵」
「…なんで」
『ん?』
「なんで、家族でもない俺たちにここまでしてくれるんすか?」

ふと抱いた疑問…ではなくて、純の気持ちを推し測ろうとした問いだった。親の愛情を知らないからこそ純が自分たちを大切だと思ってくれているんだと、この人は絶対に自分たちを裏切らないんだという確証が欲しくて。禅院家の血筋を感じさせる切長の瞳に見つめられ、これは嘘なんて通用しないなと穏やかに微笑んだ純は伏黒の頭に片手を乗せてわしゃわしゃと柔らかな髪を撫でた。

『"私の大切な人"が、君たちを守るって決めたから』
「……?」
「純さんの大切な人って?」

興味津々に身を乗り出した津美紀に笑顔を向け、『えっとね〜』とどこか楽しげに口を開いたその瞬間…。

「純〜っ、いんの〜?」
「あっ!悟さんの声だっ」
「………」

自分が風邪であることをすっかり忘れているのか、聞こえてきた声に窓から顔出し「悟さ〜ん!純さんいるよ〜!」と手を振る津美紀に片手を上げて返事を返した五条。その隣からひょこっと顔出した純の姿を確認すると、上げたままの手をひらひらと動かし手招きながら「帰んぞ〜」と呼びつけた。

「悪いけど、純連れてくよ」
「うんっ。今度は二人一緒に来てねっ」

ふわりと愛らしい笑顔を浮かべた津美紀が「ばいば〜い」と別れを告げる最中、荷物を持ち部屋を後にしようとする純の背中に伏黒が再び問いかけた。

「さっき言ってた大切な人って、まさかあの人のこと?」
『うん。そうだよ』
「………」
『またね、恵』

幼い子供でも綺麗だと感じさせる笑顔を浮かべ、外で待つ五条に歩み寄っていく純。差し出された手を握り返し、二人並んで立ち去っていく姿を伏黒はただぼんやりと眺めていた。

「やっぱお人好しだね、お前」
『五条先輩が上にかけ合ったんでしょ?』
「お前がなんとかしてくれって言ったからじゃん」
『一度手を差し伸べたなら最後まで責任持たないと』
「…つーか俺ガキ苦手なんだよ」
『自分が子供なのに?』
「ああ?」




叶わないのは分かってる。
だからこの気持ちが恋なんて、呼ぶつもりもない。


*END


*前  次#


○Top