『ハクセン、どうだった?』
木ノ葉の里を離れてから12時間。
「"周辺に暗部の監視ハ無い"」
『そう…。やっとまともに話ができる』
ダンゾウの部下…根の暗部による監視がついに途切れた。
「"警戒ハ怠らない方ガ良イ。私が見張ろう"」
『ありがとう、お願いね』
道中、里から国境を越えるまでは他愛もない話題に絞って会話をしていたイタチとリクハ。あくまでもいつものように、変わりなくを演じて銀鏡村まであと半分というところまで来たが、大正解だった。何故ならば、火影直轄の暗部であるイタチが護衛についているにも関わらず、里から20km圏内までダンゾウの部下の尾行が続いたからだ。これには流石のイタチも驚いた。極秘任務でも何でもない、表向きではただのDランク任務。その程度のレベルに監視などあり得ないからだ。
恐らくヒルゼンには内密に行われている、根による仙波リクハの監視。暗部潜入の件を疑っているというよりも、彼女の持つ情報流出を避けたいようだ。
『少しイタチと、話をしないと…』
「"話セば完全に巻き込むことニなるゾ?"」
『ダンゾウが"二人"を警戒し始めてる…』
「"聡明ナ少年たちだ。大方理解ハしてイると思うガ…"」
太い木の枝の上に座り込み、目の前にいるハクセンを見つめ溜息を吐く。イタチとシスイを巻き込むつもりは毛頭なかった。しかしもう誤魔化しは効かないだろう。現に根の監視がリクハに向いているとイタチに知られてしまったし、言い逃れはできない。ハクセンに枷られている呪印のせいで全てを打ち明けることはできないが、遅かれ早かれ話すつもりではいた。その機会が今やって来たというわけだ。
『ごめんね、ハクセン。誰にも話さないって約束だったのに』
「"いいや。…私ハどうやら、見誤っテいたよウだ"」
『…何を?』
「"…二人の…うちはの少年ヲ…"」
闇夜に映える月光の瞳が、先程まで地上にいたはずのイタチへと向けられる。下で待っていると言っていたのにどうしたのだろうとリクハも振り返り少々不安な表情を浮かべると、イタチはゆっくりとした歩みで二人に近づき感情の動きを一切感じさせない視線でハクセンを見据えた。漆黒の瞳、写輪眼を前にしているわけではないのにこの威圧感。末恐ろしい少年だと改めて感じた。
『イタチ…?どうし…』
「アンタに一つ、聞きたいことがある」
リクハの言葉を遮るようにして吐かれた声は、ただただ冷静でその先にある思考が全く読めない。人間の感情をほぼチャクラの流れから読み取り理解するハクセンにとって、イタチという人間を一言で表すのならまさに「闇」だ。自分を全く信用していない瞳を見つめ返しながら、ハクセンは頷き口を開いた。
「"…言っテみなさい"」
『………』
「…その"呪印"の発動条件は何だ」
『「!!!」』
自身の左眼を指差しながら、イタチは二人に衝撃を与えた。
リクハは瞳を大きく見開き、冷や汗を垂らす。
何故そのことを知っているんだと。
「具体的には、何処まで口外したら発動するのか知りたい」
『イ、イタチ…ちょっと待って…』
「お前、オレが何も知らないとでも思ってたのか?」
『…!!…だって私、このことは何一つ話を…』
慌てて立ち上がったリクハに視線を向けたイタチは、呆れた表情を浮かべて彼女の額を小突いてみせた。刹那、チャクラが動き全く理解できなかった感情が嘘だったかのように伝わってくる。これは、リクハに対する温かい気持ちだ。永遠に続く闇の中に、美しく輝く光が見える。唯一無二で、代わりは効かない。失ってはいけないと、きっとイタチが一番よく解っている。ハクセンの瞳が穏やかに細められた。
「話す気がないんじゃなくて、話せなかったんだろ?」
呪印のせいで。と続けながらハクセンに視線を向ける。
「巻き込みたくないのも解ってる。だが、独断専行は最良じゃない」
リクハはイタチやシスイと肩を並べるくノ一だ。
状況把握にかける時間は最小限に、知られてしまった事実を受け止めながら欠けた冷静さを呼び戻す。
『イタチ…どこまで知ってるの?』
「大半は。だがあくまでも憶測に過ぎない」
『…私が暗部の資料庫に潜入していたことも?』
「ああ。言っておくが二度とするなよ」
『う"っ……』
「二度とだ。…約束しろ」
『…はい。…もう二度としません…』
有無を言わせない圧のこもった漆黒の瞳が、リクハに向けられ内心怖い…と呟いた。
「それで?呪印については?」
「"主が他者に口外した瞬間発動スる"」
「リクハへの影響は?」
「"私トいう力を失う"」
『…そうなると、神手を扱えなくなる』
「大蛇丸というより、アンタの持つ情報流出を危惧してるのはダンゾウの方か」
手を顎に添えて思考を巡らせるイタチ。
大蛇丸の狙いは神手の力。
恐らくは、母親であるハスナからの神手奪取が失敗に終わったのだろう。だから呪印付きのハクセンを送り込み、リクハと契約を交わさせ神手を継承させた。親で駄目なら子を狙う。執着心の強い彼ならではのしつこさだ。
一方でダンゾウは、ハクセンの持つ情報流出を危惧している。抜け人と里の上層部、関わることの許されない二人の繋がり。
暗部の任務中、崩壊した大蛇丸のアジトに残されていた自分とシスイにしか解らない暗号文字。死んだはずの両親の生存確率が、予想を遥かに超え高まっている。そしてこの任務の真の目的は…。そこまで考えて、イタチがゆっくりと顔を上げた。
「リクハと二人で話がしたい。悪いが外してくれ」
『?』
「"あア。私は上空から周辺ヲ見張る。何かあレば知らせヨう"」
「了解した」
鋭い瞳を一瞬伏せて、翼を広げて空高く舞い上がったハクセン。風圧が二人の髪を揺らし静寂が訪れると、リクハはもう一度その場に腰を下ろし『座って話そう』と星の輝く空を見上げそう言った。
「"仙波ノ神手に二人のうちは…。まるで、マダラとイズナを見ているようダ…"」
遠い記憶の中にいる、初めてその身に神手を宿した人間仙波ノカゼの姿を思い出しながら、ハクセンは月光の瞳をゆっくりと閉じた。
Mission.1
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