「リクハ!」
『…!?』

カカシとの修行の帰り道。一人放心状態のまま歩いていると、背後から声をかけられ「よっ」と軽く背中を叩かれた。気配にすら気づかず慌てて振り返ると、そこには今一番会いたかった人物が少し意外そうな表情を浮かべて立っていた。

『シスイッ』
「またぼんやりしてたな。イタチは?」
『え?』
「一緒じゃないのか?」
『…なんで?』
「お前と話しをするって言ってたからだよ」

シスイの言葉を聞いた瞬間、嫌な予感が頭を過ぎる。

『…もしかして…直接修行場まで来てくれてた…?』
「じゃないのか?修行が終わる頃だって言って別れたんだ」
『…………』
「リクハ?」

抱いていた不安が確信に変わり、俯き肩を落とすリクハ。そんな彼女を前に「どうした?」と肩に手を置き顔を覗き込もうとしたその瞬間、バッ!と勢いよくシスイの腕を掴んだリクハ。顔を上げたその目に涙を溜めて、酷く表情を歪めていた。

「お、おいっ…どうしたっ…?」
『シスイッ……どうしよっ…イタチに見られたかもしれないっ…』
「…何をだ?」
『…………』

妹のように思っているリクハの大きな目が訴えかけてくる。『お兄ちゃん一大事よ。いつもみたいに助けて』と。今度は一体何が起こったんだとやるせ無い気持ちを抱きながら、やっぱり放っては置けなくてリクハの手を取り「場所を変えよう」と微笑むと、二人は一瞬でその場から姿を消した。



「(多分鉢合わせたな…。最悪だ)」

話を聞いたシスイは目を丸くし信じられないといった表情を浮かべ、ここに居ない親友を思い溜息を吐いた。イズミとの誤解を解きにいこうとしていた最中、まさかそんなやり取りを目撃することになるなんて最悪以外の何者でも無いだろう。

「お前、大丈夫か?」
『…うん』

シスイの言葉に迷いながらも頷いたリクハ。カカシがリクハを想っているのなら、話はかなりややこしくなる。それはリンとオビトの存在があるからだ。彼女はリンを慕い懐いているし、リンもリクハを可愛がっている。それより何よりオビトがこの話を聞いたらカカシの胸倉を掴んで殴りかかっていくに違いない。

『シスイ…もしイタチに見られてたらどうしよう…』
「あいつが他人に言うと思うか?」
『…違う、そうじゃなくて…っ』
「イタチに見られたら嫌なのか?」
『…うん』
「なんでだ」
『…それは、その…』

隣に座るシスイからの問いかけに視線を逸らし、目を泳がせるリクハ。言葉を詰まらせ、適当な返事が見つからないのか口を閉ざしてしまう。そんなあからさまな動揺を見せるリクハの態度にシスイの中で淡い期待が生まれ、もしかして…と少しばかり目を大きくした。ずっとそうなれば良いのにと思っていた希望が、すぐ目の前にある気がしてゆっくりと口を開き問いかけた。

「お前もしかして…」
『…………』
「イタチのことが好きなのか?」
『………絶対イタチには言わないで…』
「!」

やっと聞けた。やっと知ることができた。やっとイタチの直向きな想いが報われたと、今すぐ跳んで喜びたい気分になった。押し寄せてくる歓喜の波に心音が高鳴り、心の中で二人が両思いであることに拳を握りしめたシスイ。思わず顔が緩んでしまい、笑顔が溢れた。
が、そんなシスイとは対照的に、リクハは何故か両手で顔を覆い、溜息を吐きながらその手を力無く膝の上に落とした。切なげな横顔からは、疲れの色が見て取れる。

『叶わないって分かってるの』
「……は???」
『諦めなきゃいけないって…』
「……お前、正気か??何言って…」
『イズミちゃんはイタチを想ってる。きっとイタチも彼女を…』
「……………」

シスイの思考が一瞬停止し、唖然とした表情を浮かべる。

『イタチが私に抱いてくれるいろんな感情は多分、幼馴染だから他の人より少し特別なだけで、深い意味はないと思う…。私じゃないんだって言い聞かせてたんだけど…どうしても自分の気持ちに嘘つけなくて…』

ポロッとこぼれ落ちた涙を慌てて拭うリクハ。こんなことで泣くなんて…と、どこか気恥ずかしそうに鼻を啜りシスイと顔を合わせようとしない。そんな態度にやれやれと呆れながらも、イズミを気遣い自分の気持ちを押し殺そうとするなんて、どれだけお人好しなんだとリクハの肩を抱き寄せ頭を撫でた。
自分なんかよりもイタチと一緒になるべきはイズミの方だとしなくていい配慮をするくせに、彼女がイタチを想う気持ちの深さには全く納得していない矛盾を抱えているリクハ。イタチの為になら命を賭けられると啖呵を切れるくらい自信があるのだから、胸を張って好きだと主張すればいい。きっと里中を駆け回り探したって、幼馴染の彼女以上にイタチを理解している人間などいないし、イタチ以上にリクハを想っている人間などいやしない。
結局互い以上の存在がいないのだ。この二人には。

「叶わないかどうかなんて、まだ分からないだろ」
『…でも』
「諦めるなんてお前らしくもない。そんな必要あるのか?」
『………』
「イズミは関係ない。大切なのはお前がどうしたいかだ」
『………』
「ちゃんと向き合え、イタチと。好きなんだろ?」
『…うん。…好き』

シスイの肩に寄りかかりながら、溢れてくる涙を指先で拭うリクハ。彼の言葉はいつも優しくて、背中を押してくれるのだ。

「カカシさんのこともそうだ」
『……』
「しっかりと自分の気持ちを伝えろ。話ができない人じゃない」
『…うん』
「それと…」

頭を撫でていた手を離し、リクハの顔を覗き込む。人差し指を向け注意するような声色でシスイが口を開いた。

「イズミのことがあったからだろうけど、仲の良い幼馴染から急に距離を置かれたら、イタチじゃなくても気にするぞ。…変にあいつを避けようとするな」
『イ、イタチ怒ってた?』
「いや。むしろ落ち込んでたようにオレは見えた」

イタチの気持ちは言えない。
そんな野暮なことはしたくないから。
しかしここまで二人を見守って来たのだから、少しくらいはお節介をしても許させるだろうとシスイは穏やかに微笑んでみせた。

「お前がイタチを好きになってくれて、オレは嬉しいよ、リクハ」


ST
(そして今に繋がる)


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