「………」
『………』

病院のベッドの上で穏やかな寝息を立てている幼馴染。その小さな手を両手で握りしめると、彼女が生きている証が伝わってくる。少しばかり頼りないその温もりに、幼いイタチは目の奥から込み上げて来そうになる感情を必死で抑え込んだ。

「…リクハ…」

失わずに済んだ安堵と、もし失っていたらという恐怖がイタチの中で入り混じる。大切に思う幼馴染の名を呼んだ弱々しい彼の声は、外の雨音にかき消された。
イタチの体から落ちる水滴から、傘をささずにここまでやってきたのだということが分かる。
幼いながらに自身の感情を表に出すことをしないイタチにしては、この行動はとても感情的なものだ。

「イタチ…」
「…………」
「急に飛び出すんだもの…父さんも心配してるわ…」

開け放たれた病室のドアから姿を見せたのは、イタチの母親だった。聞き慣れた声に小さな反応を見せるも、視線は幼馴染に向けられたまま、振り向こうともしない。そんな我が子を前にミコトは切なげな表情を浮かべリクハの眠るベッドへと歩み寄った。

「こんなに濡れて…風邪を引くわよ…」
「…別にいい」
「この子ったら…。ほら、髪を拭きなさい」

そう言いながら持っていたバッグの中から白いタオルをイタチに差し出す。リクハから手を離し、愛想無くそれを受け取り頭から被る。髪から滴り落ちる水滴のせいで、自分が泣いていると思われただろうか。今の表情を見られたくなくて、イタチは若干俯き再びリクハの手を握りしめた。

「リクハちゃんは大丈夫よ、イタチ」
「なんで…」
「え?」
「なんでリクハまで、戦場に行ったの…」

振り向くことなくしそう言ったイタチの声色からは、怒りや不安、悲しみが伝わってくる。率直な我が子の問いかけに、ミコトは胸を締め付けられるような思いに駆られた。父フガクがイタチに戦争を体験させたように、リクハも戦場へ赴いた。自身もそうだが、まだ忍にすらなっていない幼馴染がどうして戦争に参加しなければならなかったのか…今回この決断をした大人たちの意思が到底理解できない。

「…イタチ、それは」
「死んでたかもしれないんだ…」
「……」
「もしかしたら、リクハが犠牲になってたかもしれない…」
「……」

イタチの強い意志を感じさせる漆黒の両眼が、母ミコトの目を真っ直ぐ見つめる。四歳の子供とは思えないほどの気迫すら感じられて、かける言葉を詰まらせた。

「…オレが守らなきゃ…」
「え?」

再び母から視線を反らし、リクハの手を両手でギュッと握りしめたイタチ。

「イタチ…?今、なんて言ったの?」

今思えば、この時からイタチの想いは芽を出していたのかもしれない。

「何があっても、絶対にリクハのことはオレが守る」


が与えてくれたもの
(それは初めて人を愛するという感情)


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