「この世のすべての争いを消し去ってしまえるほど、誰よりも優秀な忍になりたい」
アカデミー入学当初の話しだ。
教室に集った生徒たちの自己紹介を兼ねて、各々の「夢を語れ」と年老いた教師は言った。同級生たちが次々と慎ましく、かわいげのある夢を教壇の前で述べていく中、ついに回ってきたイタチの順番。
語った夢に教室の端々から小さな笑いが聞こえてきたがどうでもよかった。そのあとは予定調和の拍手が起こり、先生には「よくできました」と笑顔を向けられ頭を撫でられる。
ここにいる全員がイタチの語った夢に対して叶うわけない、無理だ、と彼が夢みがちな少年であるのだと思ったことだろう。
しかし本人は至って真剣にその思いを強く胸に抱いている。特に気にしてはいないが不特定多数の中にいて同じように拍手をしているであろう幼馴染に視線を移す。
すると目が合った。
イタチを真っ直ぐ真剣な表情で見つめ、他の生徒たちのように笑ってなどいなかった。やはりリクハは違う、自分の思いの中にある核たる部分を理解してくれているのだと分かる。大衆に認められずとも、ただ一人…自分をよく知る幼馴染に受け入れてもらえたことが嬉しくて、イタチは微笑を浮かべ席に戻った。
「さて、次はー…」
先生が持っていた名簿を指でなぞり、顔を上げながら次の生徒の名前を呼んだ。イタチの後に続いて数十人の同級生たちが実に"かわいげのある"夢を一言で公言していく中、ついにリクハの番が回って来た。内心ため息を吐きながら席を立ち、教壇の前へと移動する。大人数の前で話すことに慣れていなくて、目の上で切り揃えられている前髪を少し照れ臭そうに撫でた。クラス中の視線が、リクハに注がれる。
「じゃあリクハさん、君の夢を教えてくれるかな」
先生の穏やかな声色に促され、リクハは一呼吸置いてからゆっくりと顔を上げた口を開いた。
『仙波リクハです。…私の夢は…』
数秒後、同級生たちからどよめきの声が上がった。
*
「リクハの夢、初めて聞いた気がする」
『え、そうだった?』
「うん」
『急に語れって言われたから、緊張しちゃった』
「そんな風には見えなかった」
『私、おかしなこと言ったかな?』
「いや。オレは正直……嬉しかった」
『えへへっ。そっか』
小さく微笑んだイタチに対して白い歯を見せ笑うリクハ。穏やかな時間が流れている。
うちはと仙波の集落があるのは同じ敷地の中。そのため必然的に帰り道は一緒になる。いつもならそそくさと修行に向かうのだが、今日は二人して河原の岸に腰を下ろし夕日が沈む中語らい合っていた。燃えるような夕陽に照らされた幼馴染の横顔はやけに大人びて見えて、イタチはしばらく瞳をそらせずにいた。
空色の肩まで伸びた清らかな髪に、同色の大きな瞳。そこから生える長い睫毛が影を作り六歳とは思えないほど整った容姿をしている。時折見せる花が咲いたような笑顔はまだまだあどけなさがあり、実に可愛らしい。その笑顔を向けられるたびに、自分の中にある黒い影が薄れていくような気がしていた。
「リクハ」
『ん?』
真っ直ぐ、夕陽の映る水面を見つめたままイタチが穏やかな口調で幼馴染の名前を呼ぶ。
同級生や教師からすれば、自分たちの夢はあまりにも現実からかけ離れた妄想のように聞こえたかもしれない。滑稽だと思われたからこそ笑われもしたし、どよめきも起きた。しかしイタチもリクハも自分たちの語った夢に対してとても真剣な思いを抱いている。それを深く理解しているイタチだからこそ、リクハの夢を聞いた時心の底から嬉しいと感じていた。そして今、その思いを感謝の言葉に変えて伝えようと口を開く。
「オレのこと、信じてくれてありがとう」
綺麗な空色の瞳が、イタチの漆黒を照らす。
「お前の思いにこたえられるように、頑張るよ。だから…」
『?』
「もしオレがそうなれた時には…」
『うん』
「必ずそばに、居てもらいたい」
数時間前の夢の語らいを思い出し、イタチは嬉しそうに目を閉じ微笑んだ。
*
『私の夢は、幼馴染を火影にすることです』
リクハの言葉に同級生たちが一斉にどよめき、教師までもが唖然としていた。何を言ってるんだこの仲間は、そんな言葉が飛び交っている。まだ入学したばかりと言うこともあり、リクハの幼馴染みがイタチであるという事実を知らない同級生たちはその人物が誰なのか気になっているところだろう。
『戻っていいですか?』
「あ、ああっ。いいよ、ありがとうリクハさん」
もう自分の番は終わったんだと言わんばかりの口調で教師を見上げ問いかけると、驚いた様子でリクハの言葉に返事を返した。特に何を気にするでもなく席についたリクハを、周りの同級生たちは変わり者を見るかのような視線で見つめ小声で何かを言っている。間違ったことを言ったわけではないのだからと、どうでもいいと思い込むことにした。
『(イタチ、怒ったかな…)』
目立つことをきっと嫌がる幼馴染にそっと視線を向けると、頬をほんのり赤く染めて気恥ずかしそうに机の一点を見つめていた。
純粋に、リクハの言葉が嬉しかったのだろう。怒った様子もなく安堵しながら再び前を向いたリクハは、満足げな笑みを浮かべた。
*私の夢は、僕の夢
(君の夢を叶えたいから、もっともっと強くなる)
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