あれはまだ、第一次忍界大戦が勃発するよりもずっとずっと前の話。森の千手一族とうちは一族が長期に渡り争っていた、そんな真っ只中のことだった。
その出会いはとても偶然で、後に必然だったのだと分かるまで随分と長い時間を費やしてしまったように思う。
あの日、修行をする為たまたま入った集落から近い森の中。草木をかき分けながら進んで行った先で、お前は困ったような表情を浮かべて座り込んでいたんだ。
*
「おい」
「…っ!?」
「そんなとこで何してんだ、お前」
こんな所に人がいるのは珍しかったから、ただの好奇心で警戒もせずについ話しかけてしまった事を少しだけ後悔した。目の前にいる人物は頭から薄手の着物を被った被衣(かつぎ)姿で、女である事だけは分かる。何でこんな格好をしたやつがこんな場所にいるんだと考えながら近づいていくと、まだ幼さのある声が少年の動きをぴたりと止めた。
「ち、近づかないでくださいっ」
「……」
「それ以上近づけば、私があなたをこ…殺します」
「はあ?何言ってんだお前」
「冗談などではありませんよっ!本当にっ…」
「その挫いた足でか?」
「近づくな無礼者っ!」
いつの間に距離を縮めていたのだろう。全く分からなかった。気付いた時にはすぐ隣に少年がいて、無意識に持っていたクナイを振り回したがいとも簡単に手首を掴まれ動きを封じられてしまう。体格差はそこまでなく自分と大して変わらない年の少女だと分かった。動いた拍子に被衣の隙間から見えた空色の長い髪が、少年の疑問を一つ消し去る。
「…お前、仙波一族の人間か?」
「…!!」
「んだよ、驚いて損したっつーの」
「…え、あなた…もしかして」
「ああ。オレはうちはの人間だ」
この時代、姓を見ず知らずの人間に名乗ることは命を投げ打つことと同じだが目の前にいる少女が仙波一族であるならば話は別だった。うちは一族とは同盟関係にあり、実に親しい間柄。少女は安堵すると同時に慌てながら被衣を下ろすと、少年に向かってぺこりと頭を下げる。
「………」
「ご無礼をお許しください。つい反射的にっ…」
透き通るような空色の髪に、同じ色の綺麗な瞳。日に焼けていない白い肌がより一層その色を引き立たせていて、一瞬にして目を奪われる。少女は固まったまま何も言わない少年に首を傾げ、控えめに顔の前で手を振って見せた。
「あ、わりぃ…」
「い、いえ…」
見惚れていました、なんて絶対に言えない。
「お前こんなとこで何してんだよ。動けなかったのか?」
「は、はい。足を、挫いてしまって…」
「そんな格好で来るからだ」
「ご、ごめんなさい…」
恥ずかしそうにペコペコと頭を下げる少女を前にどうしたものかと考えていると、すぐ近くで羽をバタつかせている雛鳥が目に入り「それ…」と指差すと少女は慌ててその体を両手ですくい上げた。
「まさか、そいつを親鳥のところへ返そうと思って足挫いたのか?」
「そうです…。あの木から落ちてしまったみたいで』」
言いながら雛鳥を膝の上に乗せ、近くの大木を指差す少女。太い幹の先で枝分かれしている一箇所に、確かに鳥の巣を確認できた。そこには他の雛鳥もいて落ちた雛を心配しているかのようにピーピーと鳴いている。少年は視線を戻すと少女の前にしゃがみ込んで手を差し出した。
「貸せよ。オレが返してくっから」
「えっ…」
「見た感じケガもしてねーみたいだしな」
「あの、でも…あんなに高いところまで、危なくありませんか?」
「こんなの高いうちにか入らないっての。ほら貸せって」
「き、気をつけて下さいねっ…」
雛鳥を両手で少年に手渡すと「任せろ」と無邪気な笑顔が返ってくる。心配そうな表情を浮かべて少年の様子を伺う少女をよそに、巣のある場所が確認できると地面を蹴り高々と飛び上がった。生えている枝から枝に移動しながら巣のある所まで登り終えると、持っていた雛鳥をそっと兄弟たちの元へ返す。
「兄ちゃんか弟か分かんねぇけど、もう落ちんなよ」
ピーピーとより一層鳴き出した雛たちに笑顔を向けてから、少年は軽い身のこなしで地面に着地し何食わぬ顔で少女の元へ戻ってきた。その流れるような光景に、思わず拍手を送る少女。
「お見事でしたっ…」
「お、大袈裟だな。大したことじゃねぇだろ」
「いえっ、とても素敵でした。どうもありがとう」
「……うっ」
花が咲いたように笑う少女の姿に面食らい、頬を染める少年。
「それよりお前、立てんのか?」
「は、はいっ。もちろんです!お気になさらずっ」
「じゃあ立ってみろよ」
「え、あ…」
「なに意地はってんだよ。ほら、おぶってやるから」
「そ、そんな!滅相もございませんっ…歩けます!」
目の前まで来て背中を向けしゃがみ込んだ少年に対し、少女はこれ以上迷惑をかけたくないからとブンブンと顔を左右に振る。そうして無理矢理に立ち上がろうと挫いた左足に力を入れたその時、ビリっと痛みが走りつい表情が歪む。そんな様子を見ていた少年はため息を吐き半ば強引に少女をおぶることにした。
「きゃっ…!」
「掴まってろよ?落ちねぇように」
「お、おろして下さいっ…本当に大丈夫ですからっ」
「いいから助けられとけって。どんだけ頑固だよ」
「……〜っ。ご、ごめんなさいっ」
「いちいちすぐ謝る奴だなー、気にすんなよ」
困ったように笑う少年の表情を見ることはできないが、とても優しい心の持ち主なんだということだけはこの短時間で理解できた。少女は申し訳ないと思いつつ少年の肩に両手を乗せ掴まると、『ありがとう』と小さく呟いた。
「お前、名前は?」
「仙波ノカゼといいます。あなたは?」
「オレはマダラ!うちはマダラだ。よろしくな」
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〜出会い〜
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