戦国時代、忍と国民の平均寿命は三十才前後。
その平均を下げていたのは、戦場へ赴く多くの幼い子供の死だった。集落で生き残っている子供は少ない。そんな中で出会ったマダラとノカゼ。二人が友人と呼べる間柄になるのには、そう時間はかからなかった。
「おい!ノカゼ!」
「…?」
集落に近い森の中。
優しい小鳥のさえずりを打ち消すかのように聞こえてきたのは、自分の名を呼ぶ聞き慣れた声だった。ハッとしながら顔をあげるとこちらに駆け寄ってくるマダラの姿が映り込む。
「やっぱここにいたかっ…」
心配そうな表情から安堵したように息を吐き、腰に片手を添えて立ち止まるマダラ。そんな友人に、ノカゼが柔らかな笑顔を向ける。
「マダラ様も薬草を摘みに?」
「ちげーよ!お前を探しに来たんだよ!」
「私を?…なにかあったのですか?」
「いやお前っ…オレが言ったこと全然理解してねーな…」
きょとんと不思議そうな表情を浮かべたノカゼに対し、呆れた表情のマダラ。
深いため息を吐きながら、薬草の入っている麻生地の籠を左手に持つと、空いている右手でノカゼの手を掴み少し強引に立ち上がらせた。
「帰るぞ。集落から出るときは声かけろって言ったろ」
「でも、タジマ様とお話ししてたから」
「だとしても行き先くらいイズナたちに…」
「マダラ様なら分かると思って」
危機感の全く感じられない無垢な笑顔から逃げるように視線をそらし、頬を染めてむすっと唇をつむいだマダラ。
「なら…次からは約束しろ。一人で集落を出ないって」
「はい。約束します」
「ぜってぇ破んなよ。…こっちがどれだけ心配したか…」
最後の言葉は小さくボソッと呟かれ、ノカゼには届かない。ただ、照れくさそうな表情を浮かべているマダラにノカゼが幸せそうに微笑んだ。
「お前に何かあったら弟たちも悲しむ」
「気をつけます」
「破ったら口きいてやんねーから」
「えっ!(ガーンッ)」
自分の言った冗談を間に受け盛大に落ち込むノカゼを前に、けらけらと笑うマダラ。
「冗談だっつーの」
「か、揶揄わないでください」
何事もなく無事でいてくれてよかった。ノカゼの困ったような姿を見つめながら、マダラが手を引き歩き出す。
それから他愛もない会話をしながら集落の近くまで戻ってくると、ノカゼがここ最近疑問に思っていたことを問いかけた。
「ねえ、マダラ様」
「あ?」
「ここ数日、大人たちが慌ただしくしていますが…また近いうちに大きな戦があるのでしょうか?」
瞳をふせて、繋いでいるマダラの手をぎゅっと握りしめるノカゼ。穏やかなぬくもりを通して、争いごとを嫌う友人の不安が伝わってくる。仙波一族の中でも戦地に赴く者は一握りで、幼いノカゼはまだ本当の戦場というものを知らない。しかし、日々増え続ける負傷者を通して「戦争」というものの悲惨さを嫌というほど突きつけられている。昨日笑顔で挨拶を交わした人間が、次の日には冷たい遺体となって帰ってくることは稀ではない。それが幼い子供でも、大人たちは当たり前のように「名誉ある死」だと言い聞かせ、子供たちが戦地に赴くことを正当化する。自分たちの一族を守ってくれるうちはには感謝してもしきれない。けれど、力だけで何かを解決しようとするのは困難で、問題の本質は人の心や状況の中にあるとノカゼは言う。
「仙波の医療忍術は、仲間を再び戦場に立たせるためのものではなく、命を守るためにあるのです」
「…そうだな」
「マダラ様のことは好きです」
「は!?」
「イズナも、みんなのことも…」
「……」
「でも、今のうちはのやり方が正しいとは…」
「ノカゼ」
「!!」
「それは大人たちの前では言うな」
少し熱が入りすぎていただろうか。自分の言葉を遮るように名前を呼んだマダラの声に、ハッとして口を閉ざす。しまった…と言わんばかりの表情を浮かべたノカゼが慌てた様子で頭を下げると、ため息を一つ吐き、繋いでいた手を引き顔を上げさせた。
「オレたちは対等な関係だ。頭なんか下げんな」
「…す、すみません」
「いちいち謝るのもやめろ。それ、お前の悪い癖だぞ」
昔から疑問だった。
対等なはずの仙波一族の人間が、うちはに少しばかり諂うような関係性が。ノカゼに対しては今までに数回、やめろと指摘してきたが、癖づいてしまっているようで目に余る時がある。
「正直オレも、お前と似たようなことは考える」
「マダラ様も?」
「ああ。これ以上弟たちを犠牲にしたくねぇし、子供を戦場に向かわせる大人たちのやり方も正しいとは思わない」
不安そうな表情を浮かべているノカゼを真っすぐ見つめながら、真剣な表情で話すマダラ。
集落のほうからは、子供たちのはしゃぎ声が聞こえてくる。
「お前の言い分は最もだと思う。けどな…」
「………」
「大人たちからしたら、オレたち子供の言い分は綺麗事の絵空事。弱い奴がどれだけ正論並べても、聞く耳すら持っちゃくれねぇ」
「…でも」
「だからまずは強くならねぇと」
気の弱いノカゼを励ますかのようにそういったマダラが、ニッと白い歯を見せ笑顔を浮かべる。
「オレがもっともっと強くなってよ、弟たちのこともちゃんと守って、お前が望む平和ってやつも叶えてやるよ」
天啓を受けたかのように、ノカゼの中に衝撃が走り、抱いていた不安が、恐怖が、一瞬にして消えて無くなる。"マダラがいれば、未来はきっと平和になる"という確信が、ノカゼの中で生まれた瞬間だった。自分はその時まで、マダラという人間を支え続けるという芽生え始めた恋心とともに。
「まあ、少し時間はかかっちまうけど…そこは勘弁な」
「では!私がマダラ様の右腕になりますっ」
「いや…無理だろ。…お前弱いし、非力だし」
「(ガーーンッ)」
「普通に考えてお前が戦ってる姿が想像できねえ」
「…じゃ、じゃあ左腕で我慢します」
「いやだからな?お前弱いって自覚ある?」
「(ガーーンッ!!)」
容赦のないマダラの言葉にガクッと肩を落とし、項垂れるノカゼ。そんな姿がやはり可笑しくて、困ったように笑うマダラ。
「右腕はイズナ!左腕はまあ、今後決めるとして。お前は…」
う〜ん…と首を捻りながら悩んだ末、マダラが閃いたようにこれだ!と告げたのはーー。
「ノカゼはオレの懐刀ってとこだな!」
マダラのこの言葉は、後のうちはと仙波の関係性を象徴するものとなっていく。
「懐刀…?」
「おう!いざって時の切り札みたいな感じだな」
「私がそんな大そうな役割をいただけるなんて!」
「だから基本的な体術くらいは習得しとけよ」
「うっ……私の一番苦手な分野…」
「オレが教えてやるから、戦場でオレやイズナの背中に隠れていられるくらいにはしとけ」
それくらいでいい。
ノカゼが戦場に立つ姿など、想像もしたくない。
けれど彼女が持つ医療忍術は特別で、いずれ前線に立って戦う自分たちには必要不可欠なものになる。そうなれば…自ずとノカゼも戦場に赴く。そうなった時に、隣でもなく、背中を預けるでもなく、しっかりと守られる準備というやつをしておいて欲しいのだ。そんな日が来ないことを願いながら、マダラはノカゼの手をぎゅっと握りしめた。
「お前鈍臭いから、オレがそばにいてやんねーとな」
「ひ、酷い言いよう!」
「事実だろ」
「(ガーン!)…でもマダラ様がそばにいてくれるならいいです」
「ははっ。なんだよそれ」
ノカゼの弱さを、自分のそばにいる理由にした。
まだ純粋な心で。
肩をがくっと落として落ち込む姿に笑みをこぼしながら、こんな平和な時間が永遠に続けばいい。そんな風に思った。
*
それから数ヶ月して、新たな出会いが二人に訪れる。
「え、今なんて言ったんだ?」
「だから、ダチだっつってんだろ!何回言わせんだっ」
「ノカゼといいます。柱間様」
「……マダラ」
「あ?」
「オレはお前が嘘をつくような奴だとは思いたくなかったぞ」
「だーかーらーっ!」
マダラが河原で水切りしていた際に知り合った柱間という少年の話を、ノカゼに聞かせたのが間違いだったと今では思う。うちはと仙波以外の人間に、是非会いたいと懇願されてしまい仕方なく二人の間をとり持つことにしたマダラ。しかしノカゼを前にした柱間の反応は…。
「嘘つくな!こんな良家の娘さんみたいな、気品もあって可愛い子が、立ちションしてる時後ろに立たれると小便が止まる繊細なタイプのお前と友達なわけがないぞ!」
「それは初耳ですっ」
「マダラの弱点ぞ」
「まあっ」
「いらんこと言ってんじゃねーよ柱間ぁぁあ!!」
これが、千住柱間との出会いだった。
Origin
〜絆〜
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