「次はいつ柱間様に会えるでしょうか?」

穏やかに流れる川のほとりにある木の下に腰を下ろし、隣にいるマダラに問いかける。約束をしたわけではないがここに来ればまた柱間に会えると思っていたノカゼ。手のひらに乗せた平な石を見つめながら、少しつまらなさそうに口を尖らせた。

「お前、最近やたら柱間に会いたがるよな…」

木の幹に背を預けて、今度はマダラが不満げな表情を浮かべる。

「お前さ…」
「はい?」
「その、なんだ…なんつーか…柱間のこと…」

明後日の方に視線を泳がせながら、マダラはバツが悪そうに後ろ髪を掻く。

「す…」
「す?」
「……」
「マダラ様?」
「………いや、やっぱいい。なんでもねぇ」

自分の顔をじっと見つめてくるノカゼから視線を背けて内心自分自身を叱咤する。なんて情けない奴なんだと。

「柱間様にお会いしたいのは、三人で過ごす時間がとても楽しいからです」

柱間と会える頻度はそう多くはないが初めて会ったその時から、あの純粋で少し天然な人柄に救われてきた。もちろんマダラの前向きで仲間思いな性格にもだ。そんな二人と過ごす時間が、ノカゼにはとても特別なものになっている。
そして何より。

「お二人は一緒にいると、とても楽しそうです」
「……そうか?」
「はいっ」

確かに柱間と過ごす時間は有意義ではある。だがふざけて川に落ちたり、どちらがノカゼに水切りを教えるか言い合いになったり、そんなくだらないやり取りが、ノカゼには楽しそうに見えているのかと、嬉しそうに頷く友人を前にマダラは気まづそうに視線を逸らした。

「まあ、話しの分かる奴ではある」

少し上から目線で、冗談っぽく笑いながら返すマダラ。
そんな姿を見つめたあと、すぐに自分の手元に視線を戻したノカゼが穏やかな表情のまま口を開く。

「お二人を見ていると、思うことがあります。マダラ様と柱間様ならきっと…」
「…?」
「きっと、この争いを終わらせてくれると」

刹那、二人の間に柔らかな風が吹き抜ける。
小さく呟かれたその言葉は、平和を愛する彼女の願望そのもので、マダラは穏やかに微笑むノカゼを真っ直ぐ見つめた。
平和を願わない者はいない。
だが争いを終わらせることは容易なことではない。
殺された味方の無念を大義に、復讐というかたちで死が連鎖し続ける。その呪縛に囚われていては、先にある平穏にはたどり着けない。失ったものは互いに多い。けれど互いに赦し合う心が必要なのだと、幼いながらにマダラと柱間は理解している。

「お二人なら手を取り合える。私はそう信じています」

ノカゼの言葉を聞き、マダラがふっと笑みを浮かべる。内心では、そんな大それたことを自分たちにできるはずがない。そう思う反面、柱間と話している時だけは、不思議とそんな未来をつくるのは自分たちなんじゃないかと本気で思えてしまうのだ。その思いの中心には、ノカゼという存在があるのも確かで…。

「…なあ、ノカゼ」
「はい?」
「柱間はたぶん…千手一族の人間だ。だから…」

言葉を濁すように口を閉ざしたマダラに対し、ノカゼは表情を変えることなく瞳を伏せる。

「存じています」
「!」
「柱間様に、初めてお会いした時から」

穏やかに微笑みながらそう言ったノカゼの様子に、驚いた表情を浮かべるマダラ。

「神手は、一度触れたチャクラを記憶します。千手一族のチャクラは戦場で一度だけ…」

今でも鮮明に思い起こすことができる、死体の海と化した情景に瞳を伏せる。

「私たちとっては敵となりますが…だからこそ、手を取り合えるのです…」
「………」
「柱間様が味方では、きっと争いは終わりません」

ノカゼは少しも怯まず空を見上げる。

「お二人だから、平和の世を築けるのです」
「本気で言ってんのか?」
「もちろん!」
「お前まで柱間みてぇなこと言い出しやがって」
「マダラ様だって同じ気持ちではないですか」
「そりゃあ、まあ…」
「私は本気です」

ぐっとマダラに顔を近づけ意思の強さを主張するノカゼに対し、マダラはうっすらと頬を染め少しばかり身を引いて視線をそらす。

「マダラ様」
「な、なんだよ…」
「見ててください。私も願掛けしますっ」
「はっ?」

ばっと勢いよく立ち上がったノカゼを、少し面喰らったような表情で見つめるマダラ。穏やかに流れる川の淵に移動すると、持っていた平石を見つめたまま願いを込める。それを右手に構えると、柱間に教えてもらった手順を頭の中で繰り返す。

「(マダラ様と柱間様なら、必ず平和の世を築いてくれる)」

水面と平行になるよう少し下から投げられた平石が、水面を跳ねる。
一回…。
二回…。
三回…。
穏やかに流れる水面に、波紋の道が広がる。
ノカゼの願いを乗せて跳ねる平石が、向こう岸に届くまであと一回。期待に鼓動が高鳴り、祈るように両手を胸の前で重ね合わせる。

ーパシャッ…

「…!」

しかし願いは虚しく、対岸の手前でつまづくように沈みそうになる平石。やはりまだ、二人のようには届かないのかと思ったその時だった。

「あっ…」

平石に、背後から飛んできた小石がぶつかる。
それは実に的確で、まるで平石を後押しするかのように飛んできた。ノカゼの投げた平石が、沈むことなく向こう岸に届く。

「届いたな」

背後から聞こえた声に勢いよく振り返ると、ニッとやんちゃな笑顔を浮かべているマダラ。

「オレがもっともっと強くなってよ、弟たちのこともちゃんと守って、お前が望む平和ってやつも叶えてやるよ」


ノカゼの瞳が、陽の光と、マダラの存在を受けて宝石のようにきらりと輝く。そして胸の奥から湧きあがる、あたたかで純粋な想いを自覚しながら、ノカゼは美しく咲く花も見劣りしてしまうほど綺麗で優しい笑みを浮かべた。

「信じています、マダラ様」
「おう」
「お二人が、いつか手を取り合う日が来ることを」

穏やかな川の流れる音に、二人の笑い声が溶けていく。
この時のマダラは、まだ知らない。

近い未来、自らの言葉で、

――柱間にはもう会えない。

そう、ノカゼに告げる日が来ることを。

Origin
〜繋ぐ〜



*前 次#


○Top