それから三日後ー。

「ね〜〜!純ちゃ〜〜ん!!」
『や、やめて下さい五条先輩っ』
「さっき恵となに話してたのっ?」
『だから、次の任務の話をっ…』
「嘘!なんか二人で随分ニコニコ楽しそうに話してたじゃん!僕が知らないことっ?なに話してたのっ?教えて!」
『(め、面倒臭さが倍増した…!!)』

なぜかは分からないがあの日を境に五条の愛情表現に拍車がかかり、若干…というより以前にも増して扱いが面倒になった。

「おい!いい加減にしろバカ教師二人!」
『二人っ!?真希今二人って言ったっ?』
「ねぇ、純が一番好きなのは僕だよね?」
『真希っ!私と五条先輩を一括りにしないでっ』
「純ちゃ〜ん!」
『五条先輩しつこいですっ』
「じゃあなに話してたか教えて!」
「悟うっせーよ!!」
「二人はさっきからなに揉めてんだよ」
「おかか…」

朝のホームルームを始めるや否や、学長と打ち合わせをしているはずの五条が現れあーだこーだと一人騒ぎ出し、それを宥める純との口論が始まり今に至る。揉める教師二人にキレる真希に呆れるパンダと棘。理由を話すと生徒三人は純の味方についた。

「肝っ玉小せぇんだよ!恵とどうこうなるわけねーだろ!」
「しゃけしゃけ」
「嫉妬深い男は嫌われんぞ」
「そこは顔でカバーするから問題ない」
「うわうざっ。もうふっちまえよ純」
「パンダ、後で校内100周」
「なんでだよ!!」
『五条先輩は早く学長との打ち合わせ行って下さい』
「やだ!純も一緒じゃなきゃ行かない」

引き気味の純の腕に絡みつき、テコでも動かんと主張する。呆れている生徒三人を前にこれじゃあ授業が始められないと溜息を吐いた純は、『ちょっと来て下さい!』と五条の服を引っ張り廊下に連れ出した。会話を聞かれては困るので教室から少し離れたところで足を止めて向き合う。

『生徒の前ではやめて下さいっ、恥ずかしい』
「だって純が…!」
『恵とは任務の話しをしてたんです!』
「それ以外にもあるでしょ?なんか仲良くしてたし」

頬をプクッと膨らませて拗ねた表情を浮かべている五条を呆れたまま抱きしめると、待ってましたと言わんばかりに甘えるように擦り寄ってきた。

『どうしたんですか?なんか最近…』
「好きなの。大好きなの。愛してんの純のこと」
『…それはちゃんと分かってますよ』
「すぐヤキモチ妬いてごめんね。うざい?」
『え、いや、そんな…(なんか…)』
「ホント…?」
『は、はいっ。全然…(可愛くないデスカ?)』
「そっか…。ならよかった。純に嫌われちゃったらさぁ…」
『…?』

少しだけ距離を空けて妙にしおらしいなあと見上げると、ワザとアイマスクをずらして宝石のような瞳をうるうると涙ぐませながら(演技)、自分を見つめてくる五条が映り込んだ。その美しさと可愛さに、不覚にも心臓が跳ねた。

「僕生きていかれない…」
『(あざといっっ!!!)』
「だから学長との打ち合わせもキャンセルしといて…」
『分かっ…いやいや駄目です!なに言ってんですか…』
「じゃあせめて一緒に行こ。ね?お願い」
『いやっ、だって授業がっ…』
「純…(キラキラッ)」
『う"…っ…イケメンッ…』

全身全霊で自分の気持ち優先じゃないかと苦い表情を浮かべ、もうらちがあかないから『分かりました』と承諾しようとしたその時だった。

「……校内でイチャつくのマジでやめて貰えます?」
『…!?』

見たくねぇもん見た…とたまたま通りかかり二人に遭遇した伏黒が、死んだ魚の目をしてそりゃあもう深い溜息を吐いた。純が声にならない悲鳴をあげて五条から離れようとすると、こりゃあいいと笑顔を浮かべた約一名は「おっは〜恵〜」と言いながらこれ見よがしに純の肩を抱き寄せた。

「純ちゃんが僕のこと大好きって。注意しとくよん」
『いやおい!ふざけんなこのバカ目隠し!』
「…どーせ五条先生が橘華先生振り回してんでしょ?いい加減にしないとマジで嫌われますよ。俺には関係ないっすけど」
「いやいや。僕顔面偏差値ズバ抜けてるからそうゆうのないの」
「いやそうゆうとこでしょ。うざがられる性格でググって下さい」
「マジ?もうそうゆう時代?」
「時代関係ないでしょ」
「平成コワ〜」
『いいから打ち合わせ行って下さい…』

もう本当に勘弁してくれとさっきから鳴りっぱなしの携帯を取り出す。着信履歴が学長一色になるのは珍しいことではないけれど…。

「あ、そうだ恵」
「なんすか」
「さっき純となに話してたの?」
「は?」
『先輩いい加減にして下さいっ。恵に聞かなくてもっ』
「純が変なこと吹き込んでないか心配でさ」
『はぁっ!?先輩さっきまで散々…っ』

二人とは付き合いの長い伏黒だからこそ立てられる憶測。きっとまた、自分と話している純を見て五条が嫉妬したのだろう。こんなところでこうしていたのも、純が五条を宥めるためだったんだなと理解できた。よくもまあこんなめんどくさい相手を彼氏にしたなと思いながらも、気の利く伏黒はいつもと変わらぬ表情で口を開いた。

「任務の話、うまい飯屋の話、それと」
「それと?」
『(それ以外話してないけど…)』
「橘華先生のノロケ話。五条先生がかっこいいって」
『!!』
「……マジ?」
「マジ。よかったすね。じゃ、行きます」
『(恵ぃぃぃぃぃっ!!!)』

恐ろしくフォローが的確で上手すぎると驚愕し涙ぐむ純を他所に、五条は恵の背中を見つめて穏やかに微笑んだ。

「よかった。恵が同期じゃなくて」

そしたらきっと、純を独り占めできなかった。


Don't make mejealous.



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