「みんな揃ってるね!じゃあ〜、あとよろしく!」
「おいふざけんなクソ教師!!」
「しゃけ〜っ」
「お前15分も遅刻しといて第一声がそれかよっ」
「憂太もなんか言え!!」
「僕っ!?(真希さんコワッ)」

寒さに鼻を赤らめて、その顔を隠すように吐く息は白く温かい。東京の街にある少ない草木は色を失うも、建ち並ぶ商業施設からもれ出す灯や人の往来が街を明るく色付けている。同じ東京にあっても不気味なほど殺風景な景色へと移り変わってしまった高専とは真逆な風景。曇天の空からいつ雪が降ってきてもおかしくはない寒さの中、いつも通りに遅刻をしてきた担任に対して真希、パンダ、棘は腹を立て、乙骨は苦笑いを浮かべていた。

「いや〜メンゴッ。買い物してたら思いの外悩んじゃってさ」
「……ムカつき過ぎて寒さ感じなくなってきたわ」
「お前職務放棄にも程があんだろ」
「しゃけ」
「ま、まあ…任務に関わる大事な買い物かもしれないし…」
「ナイスフォロー憂太!」

パチンッと指を鳴らして人差し指を乙骨に向ける五条。
なんでお前はこのバカの味方してんだよ…!そう言わんばかりの真希の視線に、乙骨は冷や汗を垂らしながらパンダの陰に身を隠した。

「まあ任務には一ミリも関係ないんだけどね」
「えっ!?関係ないんですか!?」
「ないよ。純ちゃんへのプレゼントだから」

白い歯を見せ笑いながらサラリとそう言った五条に対し、今度は乙骨を含む全員の表情が揃って歪む。

「僕ってこう見えても愛妻家なんだよね〜」
「だったらもうちょい純を労われよ」
「ツナマヨ」
「どうせすぐ離婚すんだろ」
「(やっぱ真希さんコワッ…)」

かわいい生徒たちからの辛辣な意見に流石の五条も気を落とすかと思いきや、どこか満足感に満たされているような笑みを浮かべていて気にもとめていないようだった。

「じゃあ憂太以外の三人で建物内にいる呪霊祓ってきて」
「えっ!また僕だけ待機ですかっ?」
「そ。特級呪術師が出張るほどの任務じゃないし」
「まあ憂太がいると俺たちの出番なくなるしな」
「しゃけ」
「異議なーし」
「え、ええ〜っ…みんなぁ…」
「んじゃ、帳降ろすよ。頑張ってね〜」

五条が呪文を唱えると、三階建の廃ビルを取り囲むようにして帳が降ろされる。本音を言えば任務に加わりたかったが、仕方がないと気持ちを切り替える。最近では単独任務も増えていて、経験を積む機会が失われたわけでないのだからと。

「五条先生」
「んー?」

帳を降ろすためにかざした指を解放し、ゆっくりと振り返った五条。

「純先生へのプレゼント、何買ったんですか?」
「ああ、これ?」

五条が腕から下げているのはいかにも高級そうな紙袋。自分には縁遠い物のように感じる。少し前に自身の担任が五条家という名家の当主で、かなりの資産を有しているとパンダたちから聞いた。それだけお金があるのならさぞ使い方も派手なのかと思いきや、高専での活動費はきっちり経費でまかなうため意外にケチだとも聞いている。特級呪術師で名家の当主を動かすとなると、年間で膨大な資金が必要になるのだと学んだ乙骨。そんな彼が婚約した恋人に何を贈ろうとしているのかが気になって、見せてくれた紙袋の中身を覗き込むとそこには真っ白なマフラーが入っていた。

「純に似合いそうでしょ」

そう言って向けられた笑顔が大人の男性というよりかはどこか無邪気で純粋で、本当に純のことが大好きなんだなと伝わってきた。子供っぽいが同じ男としてはその単純さがよく解る。

「昔、純からマフラーもらったことがあってね」
「え?」
「ここに来る途中ふとその時のこと思い出してさ〜」

五条の口から滅多に語られることのない、学生時代の三年間。
良い思い出を懐かしく思う反面、世界でたった一人の親友との決別が否が応でも繰り返される。純という存在だけを切り抜くことはできないまま、懐かしさに笑みを浮かべて今も変わらない温もりをくれるマフラーに顔を埋めた。




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