聞こえるアネモネの足音。


「みどりや、くん」


窓の外から帰宅を始める他の科の生徒の声がする、6限目と7限目の間の10分休み。

雄英高校特有のバリアフリーの大きな扉から、どもった声で呼ばれて振り返れば、幼馴染みの高峰未涼がひょっこり教室を覗き込んでいた。

「わ! 未涼ちゃん、何かあったの?!」

彼女が僕を尋ねる時は何か悩み事がある時、と相場が決まっているので、麗日さんと飯田くんとの雑談を中断して慌てて彼女に駆け寄る。
遠くの方で、緑谷に女子の知り合いが! 見たことないけどリュック背負ってるから普通科の子か? とかいった上鳴くんと瀬呂くんの話し声が聞こえるけど、今は相手にしている場合じゃない。

「た、たいしたことじゃないんだけどね?」

いつも冒頭にその常套句を置く彼女の顔は、俯いて垂れた長い前髪に隠されて朱に染まっている。人の視線が苦手な彼女にとって、滅多にない来客に向くクラス中からの好奇の目は耐え難いものがあるのだろう。

「私の、個性、高校生活もうだめかなぁ」

そう話して目を潤ませた彼女の手には、少し大振りな紙袋。

中学の時にも聞いた彼女の発言と、その袋の中身に悪い予感を覚えて、彼女からそれを受け取り中を覗き込む。


それは、たくさんの彼女の写真。


「また盗撮されたみたいで」


彼女はそう言って薄く笑った。

-2-
mae mokuji ato
ALICE+