贈り物のエリカが唄う。


──昔からこうだった。


個性が発現したのがいつかは明確にはわからない。
私はお母さんの人を引きつける個性とお父さんの人を動かす個性を受け継いだ。二人の完全な上位互換、私に惹かれた人は私の言うことをなんでも聞いてしまう。『魅了』、そう呼ばれるようになった私の個性。私の大嫌いな個性。

その個性は年を重ねるごとに強くなっていき、今でも私は自分の個性の制御ができない。顔や肌を隠して、地味に、目立たないようにすることだけが、なんとか私が生きていく術だった。

伸ばした前髪と俯いた顔。それでも私の個性は溢れていく。

下駄箱に入れられる手紙の山。机の上に積み上げられたプレゼント。幸いなのかどうなのか、私の個性は同性をも“魅了”するから漫画みたいな体育館裏集団リンチはないけれど。

ちょっと人通りの多いところに行けば道が塞がって進めやしない。差し出される名刺や花束、果ては現金まで、私にいったいどうしろというのだろうか。


両親以外で私のことをよく知る人がいる。昔から私を助けてくれる幼馴染。

緑谷出久くん。私たちの世代ではとても珍しい無個性で、でもとっても優しい人。彼に救われた回数なんて数え切れなくて、彼がいなければ私はとっくに世界を拒絶して家に引きこもっていただろう。

私は彼に依存しているのかもしれない。だから、私は雄英を受けるという彼を追いかけて私でも入れそうな普通科を受験した。彼が落ちた時のことなんて考えてなかった。別に彼が合格すると確信していたわけではなかったけれど、心の底では彼ならできるとわかっていたのかもしれない。

入学してすぐなのにヒーロー科の訓練で彼のクラスがヴィランに襲撃されて、彼が大怪我をしてリカバリーガールの治療を受けていると聞いた時は驚いた。ヒーローなんて目指さないでほしい、ずっと私といてほしい。そんな自分勝手なことが頭をよぎって、家でうずくまっていることしかできなかった。彼が私を心配して家まで来てくれた時は泣いて彼にしがみついたものだ。

それが緑谷くんに依存し続けた私の成れの果てだった。


それから、特筆するべき人がもう一人。
緑谷くんとは対照的に、自尊心に満ち溢れた、爆豪勝己くん。

彼も私の幼馴染だけど、彼に何かをしてもらったことはほとんどない。昔は緑谷くんも含めた三人でよく遊んだものだけど、爆豪くんに個性が発現して緑谷くんが無個性だとわかってからは、すっかり疎遠になってしまった。

何でもできる彼は凄いし尊敬する。でも、緑谷くんをいじめる彼は嫌いだった。私が緑谷くんを大好きだから余計に。

そんな彼も、私たちと同じ雄英高校に進学した。昔からヒーローになりたがっていた彼はそうすると思っていたし、彼なら必ず、彼の言う高額納税者にだってなれると思う。私は彼を昔から知っているから、彼が自信家なだけでなく誰にも負けない努力家だと知っている。

彼が私の方を見てくることはほとんどない。きちんと目を見て話を聞いてくれる緑谷くんとは違って、彼の目を最後に見たのがいつかなんて思い出せない。それくらい彼は私の方を見ないし、そもそも話す機会もほとんどなくなってしまった。

彼は私が嫌いなのだと思う。強い個性の発現以来自尊心の肥大化が目に余る彼だけど、昔から目立ちがり屋ではあったのだ。
彼より目立つ私が、彼は気に食わないのだろう。そして、彼より緑谷くんを優先するところも。

私の緑谷くんへの依存心と、私と爆豪くんの間の距離は、着実に比例して大きくなっていった。


こんな個性なくなればいいのに。個性を欲していた緑谷くんの隣でそんな言葉を吐き出すのはどうかと思ったけれど、私は私の運命をそう呪わずにはいられなかった。


雄英に入学して数ヶ月。目立たずにひっそりと、私にしてはなかなか穏やかな日々を過ごしていたある日、登校してすぐに自分の引き出しの中で久しぶりにそれを見つけた。

無理やり詰められた紙袋。嫌な予感がして、それを持ってトイレへと駆け込む。冷たいタイル張りの床の上で深呼吸をして、意を決して中を見る。

丁寧に一つ一つ封をした私への手紙と、いつ撮られたのかわからない私の写真の山。ボイスレコーダーと、指輪。思わず落として割ってしまった、誰のかわからない、血液のようなものが入ったガラス瓶。


血の気が引いて吐き気がするのをなんとか我慢して、顔面蒼白なまま虚ろに一日を過ごした。

そうして、その日最後の授業が終わった直後、耐えかねた私はまだ授業の残るヒーロー科へと足を走らせたのだ。

-3-
mae mokuji ato
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