「轟くんはさ、もっと自分がイケメンだって自覚した方がいいよ」
「そうか」


淡白で特に心のこもってない返事だ。轟くん、絶対分かってないでしょ。今ですら私の心臓はドキドキ音をたててやまないのに。もし私が轟くんのことを好きじゃなくても、イケメンの轟くんにされるとドキドキしてしまうと思う。イケメンは得だ。

今日は轟くんと日直で、今は一番最後の仕事である日誌を書いていた。それを覗き込むように轟くんが見ている。顔が近い。まつ毛長いな轟くん。そんなに見られると日誌の字が緊張で歪んでしまいそうだ。程よい距離感とか知らないのかこの人。



「なんか汗かいてねえか?暑いか?」
「あついと言われれば熱い」
「氷だそうか?」
「そういう暑いじゃないから大丈夫」



心配してくれるのは嬉しいけど方向性が違うんだよな。少し離れてくれるだけでちょっとはマシになる熱さだよ。轟くんに見られていると進むものも進まないよ。もう一度チラリと轟くんを見れば轟くんも私を見ていたようで目が合うと不思議そうに首を傾ける。ほんっとうにイケメンを自覚してほしい。さっきより顔が熱くて、誤魔化すように轟くんに合わせて首を傾け精一杯笑ってどうしたのと聞く。轟くんは何も言わずに氷を使う左手を伸ばし、手の甲を私の左頬に押し付けた。頻繁に氷を使う彼の手はひんやりとしていて今の私の熱を冷やすにはちょうどいい。ちょうどいいけど。



「なっ、と、とどろきくん!?」
「やっぱり熱いぞ。熱出てるんじゃねえか?」
「逆効果ですそれ!」
「えっ」
「轟くん、イケメン自覚して」
「お、おう?」



訳も分からないという顔で轟くんは手を離していく。これ以上イケメンを振りかざされると心臓がもたないよ。思わず机の日誌の上に伏せて真っ赤な顔を隠した。これが天然で誰にでも同じことするから質が悪い。私が特別だったらいいのにな。どうしたと焦った声で轟くんが話しかけてくる。さっきの出来事は忘れよう。特別じゃないなら意味のないことだ。



「ごめん、大丈夫」
「さっきからおかしいぞ」
「うん、自覚してる。ごめん。早く日誌書いちゃおう」
「?早く元気になれよ」
「ありがとう」



頭を上げて日誌に向かえばぽんぽんと頭をなでてくる。轟くんってこんなにスキンシップが多い人だったっけ、と思いながら頭にあった疑問を否定した。こうやって普通に勘違いさせる行動するんだこの人は。本当に、質が悪い。少しでも私のこと意識してやってくれればいいのにな。轟くんは私が調子を戻したと思っているのかまた最初と同じように、顔を近づけて日誌を覗き込んでいる。だからイケメン自覚してって言ってるのに。



春を待つ僕ら



prev next
back