6.5
今日も今日とて朝日を浴びながら、空を舞う鳥達からのお裾分けを貰っている。たまに大型の魚が鳥達を狙っては飛沫を上げ船を揺らしたけれど、アンや鳥達の連携で上手く彼らを追い払っていた。
今日はたまたま連続で三匹ほど釣れてしまったので(ベポくんが上手いこと一匹仕留めていた。今日の夕飯はお魚です)、お裾分けはいつもの半分の時間で終了することになった。
「みんな、ありがとう。気を付けてね」
果物や木の実の詰まったシーツを足元に置き、空を行く彼らに手を振る。名残惜しそうに此方を振り返る姿は酷く愛らしくて、思わず小声で「神よ、彼らが無事陸地へ辿り着けますように」と呟けば、耳聡くそれを拾ったアンが唸った。「軽率に祈るな」だそうだけれど、この船に乗る前はアンだってしていた習慣だ。
神に祈るのは呼吸にも近い。私はアンが自分の言葉を人間が理解出来ないのをいいことに、こっそり神へ祈りを捧げているのを知っている。
「……神よ、アンに幸運がありますように」
「……この私の忠告を無視するとはいい度胸だ」
「ふふ、ごめんなさい。アンのことを愛しているから、つい口に出てしまったの」
「ぬ。愛……ふむ!ならば仕方無いな!許す!!」
単純な彼の頭を撫でて、足元の包みに手をかける。
今日も沢山いただいてしまった。私とアンで持ち上げられるだろうか……と悩んでいるうちに、アンが包みの端を咥えた。小型の犬程の大きさに見合わぬ膂力を持つ彼は、白熊のベポ君には負けるけれども、すでに成人男性の力を凌駕している。
そんな彼が咥えた包みの結び目に釣られるようにして、私は慌てて荷物を運ぼうと足を進めた。するとコロリ、と一つ、シーツの隙間から果物が落ちた。
『何をしている。ちゃんと持て!』
「あ、ごめんなさい、ってもう、横着して」
『元々以心伝神のみで会話していたのだぞ、私達は。それをお前に合わせているのだ。横着ではない』
「うーん……」
こぼれ落ちた果物を拾い、彼の言葉を咀嚼する。元々、私の様な翼ある人間とアン達翼の生えた獣は共存していた過去があった、らしい。
捨てられた私は当然親の存在など知らぬし、アンだって彼を孵化させたのは私なのだから、過去の事を知るはずも無いのだけれど。
そもそも、私達は種として滅びたと彼自身が言っていた様な気が。横目でアンを見れば、彼は「ええい、ふぁやくもへ!」とシーツの結び目に噛みつき言った。
「……まぁ、いいか」
私の故郷は別にある。シスター達と過ごしたあの教会と、三人の弟が出来たコルボ山。
何処か遠く離れた場所に私の祖先がいるからと言われても、所詮私は捨てられた身だ。少し心に引っ掛かるものはあったけれど、今どうしても知りたい内容でもなかった。
再度アンに急かされて、私は咄嗟に拾った果物をズボンのポケットに仕舞って(Tシャツの下に入院着のズボンを履いている。でなければ流石に外に出れない)、包みを支えるべくシーツの下に手を入れ持ち上げた。
食堂へ向かう途中、手伝いに来てくれたベポくんが果物の山を持ってくれた。
すれ違うクルーの皆さんに挨拶を返しながら、固い足音の響く廊下を歩く。
私は靴下だけなので音はせず、ベポくんのトコトコという音だけが廊下に響くものだから、すれ違うクルーさんは苦笑いだ。
この船に女性ものの靴など当然あるわけもなかった。
隣を歩きながら高いところにあるベポくんの顔を見上げる。
「ねぇ、ベポくん」
「ん?なんだ?」
「次の島までってどれくらいかかるのかな」
「んー、多分、このまま問題なく進めれば三日ぐらいじゃないかな。 どうしたんだ?」
純粋な疑問だけが浮かんでいるベポくんの、柔らかな視線が私を捉えた。アンは怪訝せずと言ったようにそっぽを向いて隣をパタパタと飛んでいる。
「その。……次の島までに皆さんにお返しが出来たらなって」
彼らの優しさが辛い。
人間は好きだ。弟だって人間だし、私だって、恐らく、人間だ。
けれど彼らをただ信じ続けるにはあまりに人間に裏切られすぎていて。私はどうにもやきもきとしてしまう。
与えられたら同じ分だけ返さなくてはいけない。この海ではそれが出来ないと、いつかツケの分だけ悲しい出来事が起きてしまうものだと、私は一人感じていた。
与えすぎてもいけない。
貰いすぎてもいけない。
「ギブアンドテイクって言うでしょう?……私は、貰ってばっかりだから」
「!」
呟くように吐き出した言葉は確かにベポくんへ届いた様で、彼の足が止まる。二、三歩進んでからそれに気がついてアンと共に振り替えれば、ベポくんはただでさえ丸い目をくりくりとさせて、口をぱかりと空けていた。
「ベポくん?」
「あ、えっと、ううん!」
「? そんなわけで、ベポくんにもお返しをしたいの。私に出来ること、無いかな」
「うーん、なまえはご飯作ってくれてるし、鳥のお陰で魚も釣れてるから、食料にも困らないしなぁ」
食事以外で無いかと問うが、ベポくんは首をぐいーんと傾げ困った顔をする。困らせたいわけでは無かったので苦笑いで曖昧にお茶を濁して話を終わらせた。食堂はもうすぐそこだった。
ベポくんに代わり食堂の扉を開け、中に足を踏み入れる。昼食の準備をしなければ。
「あ!」
そう頭を切り替えたところで、背後から飛び出た音に再度振り替える。
「なまえ!そ、その、おれなまえにしてもらいたいこと、ある!」
「えっ?」
食堂にはそこそこのクルーさん達がおり、ベポくんの大きい声に何だ何だとざわついた。
パチパチと目を瞬いていれば、彼は荷物をテーブルにどさりと置いて、柔い肉球のついた手で私の両手を取った。
「おれ、なまえと友達になりたい!」
真ん丸の目が、鋭い歯の並ぶ口が、毛むくじゃらの身体が言った。
キラキラとした光を取り込む彼の目が、優しい言葉ばかりを紡ぐ口が、柔らかで暖かい身体が言った。
私は驚きで声も出せなかった。
室内では「はァ〜〜?」という訝しげな声と、何処か生暖かい視線が飛び散っている。
「……」
「……し、白熊が友達になりたいとか言ってすいません……」
「ち!違う!!そうじゃないの!」
私の手を握ったままどんどんと項垂れていく彼の頭を見て、私は慌てて答えた。どうしたら良いか分からない。おろおろとアンを見やるが彼は眉を上げるだけだ。
「べ、ベポくん、私、嬉しいの……」
「えっ!ほんと?」
「うん、でも、その、私今まで友達とか居たこと、無くて」
ベポくんの視線が上がると共に、今度は私の視線が下がっていく。今まで一緒に居たのは家族だけだ。鳥達は友達ではないし、アンは相棒だ。エースやサボ、ルフィは弟。シスター達は血の繋がらない家族……。
それ以外は全て"他人"としか思って居なかった。排他的だ。いつしかエースやサボをそう例えたけれど、私自身だって大差ない。むしろ、私の方が。
そんな私に、友達。
なんだか耳慣れない言葉に思えた。
戸惑う私に、拒否されたわけではないと理解したベポくんはにっこりと笑って私の脇の下に手を入れた。えっ、と声を出す間もなくそのまま身体を持ち上げられて、くるくるとその場で回される。
「っへ?え?あ、わわわわ」
「へへへ、じゃあおれがなまえの一番最初の友達だね!」
嬉しそうに笑う彼の何と可愛いことか。白熊の友達なんて、考えたことも無かった。
遠心力に足を取られて身体が持ち上がり、Tシャツの裾がはためく。「おおおお!?み、見え……?」「アッ天使ちゃんズボン履いてる……」「グルルルルルル……!!」「やべぇアンだ逃げろ!!」……外野が煩い中、ベポくんは満足したのかそっと私を降ろした。
たたらを踏んだ私を支えるようにアンが私の腰に身体をピタリとくっつけてきたので、お礼を言うように彼の額を撫でる。噛まれた。えぇ……。
「なまえ、友達居たことないんだろ?」
「えっ、っと。うん、そうです」
ベポくんの真っすぐな言葉に衝撃を受けつつ、彼に視線を戻せば、ベポくんはニコニコと笑って続けた。
「じゃあおれが教えてあげる!あのな、友達っていうのは、対等なんだ」
「……え?」
「利害の一致とか、ギブアンドテイクとか、そういうんじゃないんだ」
「ベポくん……」
彼の笑顔の中にある意図を察して、口を閉じる。アンに噛まれ続けている右手が痛い。予想外なことが起きた時、思考を逸らしてしまうのは私の悪い癖だと、アンに言われた記憶が蘇える。ああ、これこそが逸れた思考。
二の句が継げぬ私を見て、ベポくんはそっと私の頭を撫でた。
「だから、お返しとかいらない。なまえの荷物を持つのも、服を貸してるのも、おれがしたいからやってるんだ」
彼の言葉に反応したのは、船室に居たシャチさんだ。シャチさんも、いつも私を気にかけてくれている。ペンギンさんも、ローさん、も。
シャチさんは笑いながら私たちに駆け寄り、ベポくんの肩をバシーンッと叩いた。
「な〜ァにかっこつけてんだよ!天使ちゃん天使ちゃん、俺も俺も!何なら昼飯だって作るの手伝うし!」
「なんだよシャチ、なまえの最初の友達はおれだぞ!」
「何楽しそうなことしてんだ?」
「天使ちゃんのお手伝い競争?」
「あんだそりゃ」
続々と集まるクルーの皆に囲まれて、にわかに食堂が騒がしくなる。ベポくんは何故かシャチさんから私を守るように抱えだし、そんなベポくんにアンが吠える。慌てる私に「ベポくん、じゃなくて、ベポでいいよ!なまえは友達だから!」と彼が言った。それに続けて「天使ちゃん、俺もシャチ でいいよ!」「なんか語尾が気味悪ィんだよ馬鹿」「シャチの馬鹿より俺を!」という声が、がやがやと私を取り囲んだ。
「……おい、飯……何してんだ?」
「「「あ、キャプテン」」」
開いた扉から出た声に、顔をそろえて其方を見る。呆れたような顔をしたローさんが、一度口を開いたが、ため息だけを吐き出して口を閉ざす。そして仕方が無さそうに口元を歪めて笑うものだから、私も釣られて苦笑いをこぼすのだった。
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今日はたまたま連続で三匹ほど釣れてしまったので(ベポくんが上手いこと一匹仕留めていた。今日の夕飯はお魚です)、お裾分けはいつもの半分の時間で終了することになった。
「みんな、ありがとう。気を付けてね」
果物や木の実の詰まったシーツを足元に置き、空を行く彼らに手を振る。名残惜しそうに此方を振り返る姿は酷く愛らしくて、思わず小声で「神よ、彼らが無事陸地へ辿り着けますように」と呟けば、耳聡くそれを拾ったアンが唸った。「軽率に祈るな」だそうだけれど、この船に乗る前はアンだってしていた習慣だ。
神に祈るのは呼吸にも近い。私はアンが自分の言葉を人間が理解出来ないのをいいことに、こっそり神へ祈りを捧げているのを知っている。
「……神よ、アンに幸運がありますように」
「……この私の忠告を無視するとはいい度胸だ」
「ふふ、ごめんなさい。アンのことを愛しているから、つい口に出てしまったの」
「ぬ。愛……ふむ!ならば仕方無いな!許す!!」
単純な彼の頭を撫でて、足元の包みに手をかける。
今日も沢山いただいてしまった。私とアンで持ち上げられるだろうか……と悩んでいるうちに、アンが包みの端を咥えた。小型の犬程の大きさに見合わぬ膂力を持つ彼は、白熊のベポ君には負けるけれども、すでに成人男性の力を凌駕している。
そんな彼が咥えた包みの結び目に釣られるようにして、私は慌てて荷物を運ぼうと足を進めた。するとコロリ、と一つ、シーツの隙間から果物が落ちた。
『何をしている。ちゃんと持て!』
「あ、ごめんなさい、ってもう、横着して」
『元々以心伝神のみで会話していたのだぞ、私達は。それをお前に合わせているのだ。横着ではない』
「うーん……」
こぼれ落ちた果物を拾い、彼の言葉を咀嚼する。元々、私の様な翼ある人間とアン達翼の生えた獣は共存していた過去があった、らしい。
捨てられた私は当然親の存在など知らぬし、アンだって彼を孵化させたのは私なのだから、過去の事を知るはずも無いのだけれど。
そもそも、私達は種として滅びたと彼自身が言っていた様な気が。横目でアンを見れば、彼は「ええい、ふぁやくもへ!」とシーツの結び目に噛みつき言った。
「……まぁ、いいか」
私の故郷は別にある。シスター達と過ごしたあの教会と、三人の弟が出来たコルボ山。
何処か遠く離れた場所に私の祖先がいるからと言われても、所詮私は捨てられた身だ。少し心に引っ掛かるものはあったけれど、今どうしても知りたい内容でもなかった。
再度アンに急かされて、私は咄嗟に拾った果物をズボンのポケットに仕舞って(Tシャツの下に入院着のズボンを履いている。でなければ流石に外に出れない)、包みを支えるべくシーツの下に手を入れ持ち上げた。
食堂へ向かう途中、手伝いに来てくれたベポくんが果物の山を持ってくれた。
すれ違うクルーの皆さんに挨拶を返しながら、固い足音の響く廊下を歩く。
私は靴下だけなので音はせず、ベポくんのトコトコという音だけが廊下に響くものだから、すれ違うクルーさんは苦笑いだ。
この船に女性ものの靴など当然あるわけもなかった。
隣を歩きながら高いところにあるベポくんの顔を見上げる。
「ねぇ、ベポくん」
「ん?なんだ?」
「次の島までってどれくらいかかるのかな」
「んー、多分、このまま問題なく進めれば三日ぐらいじゃないかな。 どうしたんだ?」
純粋な疑問だけが浮かんでいるベポくんの、柔らかな視線が私を捉えた。アンは怪訝せずと言ったようにそっぽを向いて隣をパタパタと飛んでいる。
「その。……次の島までに皆さんにお返しが出来たらなって」
彼らの優しさが辛い。
人間は好きだ。弟だって人間だし、私だって、恐らく、人間だ。
けれど彼らをただ信じ続けるにはあまりに人間に裏切られすぎていて。私はどうにもやきもきとしてしまう。
与えられたら同じ分だけ返さなくてはいけない。この海ではそれが出来ないと、いつかツケの分だけ悲しい出来事が起きてしまうものだと、私は一人感じていた。
与えすぎてもいけない。
貰いすぎてもいけない。
「ギブアンドテイクって言うでしょう?……私は、貰ってばっかりだから」
「!」
呟くように吐き出した言葉は確かにベポくんへ届いた様で、彼の足が止まる。二、三歩進んでからそれに気がついてアンと共に振り替えれば、ベポくんはただでさえ丸い目をくりくりとさせて、口をぱかりと空けていた。
「ベポくん?」
「あ、えっと、ううん!」
「? そんなわけで、ベポくんにもお返しをしたいの。私に出来ること、無いかな」
「うーん、なまえはご飯作ってくれてるし、鳥のお陰で魚も釣れてるから、食料にも困らないしなぁ」
食事以外で無いかと問うが、ベポくんは首をぐいーんと傾げ困った顔をする。困らせたいわけでは無かったので苦笑いで曖昧にお茶を濁して話を終わらせた。食堂はもうすぐそこだった。
ベポくんに代わり食堂の扉を開け、中に足を踏み入れる。昼食の準備をしなければ。
「あ!」
そう頭を切り替えたところで、背後から飛び出た音に再度振り替える。
「なまえ!そ、その、おれなまえにしてもらいたいこと、ある!」
「えっ?」
食堂にはそこそこのクルーさん達がおり、ベポくんの大きい声に何だ何だとざわついた。
パチパチと目を瞬いていれば、彼は荷物をテーブルにどさりと置いて、柔い肉球のついた手で私の両手を取った。
「おれ、なまえと友達になりたい!」
真ん丸の目が、鋭い歯の並ぶ口が、毛むくじゃらの身体が言った。
キラキラとした光を取り込む彼の目が、優しい言葉ばかりを紡ぐ口が、柔らかで暖かい身体が言った。
私は驚きで声も出せなかった。
室内では「はァ〜〜?」という訝しげな声と、何処か生暖かい視線が飛び散っている。
「……」
「……し、白熊が友達になりたいとか言ってすいません……」
「ち!違う!!そうじゃないの!」
私の手を握ったままどんどんと項垂れていく彼の頭を見て、私は慌てて答えた。どうしたら良いか分からない。おろおろとアンを見やるが彼は眉を上げるだけだ。
「べ、ベポくん、私、嬉しいの……」
「えっ!ほんと?」
「うん、でも、その、私今まで友達とか居たこと、無くて」
ベポくんの視線が上がると共に、今度は私の視線が下がっていく。今まで一緒に居たのは家族だけだ。鳥達は友達ではないし、アンは相棒だ。エースやサボ、ルフィは弟。シスター達は血の繋がらない家族……。
それ以外は全て"他人"としか思って居なかった。排他的だ。いつしかエースやサボをそう例えたけれど、私自身だって大差ない。むしろ、私の方が。
そんな私に、友達。
なんだか耳慣れない言葉に思えた。
戸惑う私に、拒否されたわけではないと理解したベポくんはにっこりと笑って私の脇の下に手を入れた。えっ、と声を出す間もなくそのまま身体を持ち上げられて、くるくるとその場で回される。
「っへ?え?あ、わわわわ」
「へへへ、じゃあおれがなまえの一番最初の友達だね!」
嬉しそうに笑う彼の何と可愛いことか。白熊の友達なんて、考えたことも無かった。
遠心力に足を取られて身体が持ち上がり、Tシャツの裾がはためく。「おおおお!?み、見え……?」「アッ天使ちゃんズボン履いてる……」「グルルルルルル……!!」「やべぇアンだ逃げろ!!」……外野が煩い中、ベポくんは満足したのかそっと私を降ろした。
たたらを踏んだ私を支えるようにアンが私の腰に身体をピタリとくっつけてきたので、お礼を言うように彼の額を撫でる。噛まれた。えぇ……。
「なまえ、友達居たことないんだろ?」
「えっ、っと。うん、そうです」
ベポくんの真っすぐな言葉に衝撃を受けつつ、彼に視線を戻せば、ベポくんはニコニコと笑って続けた。
「じゃあおれが教えてあげる!あのな、友達っていうのは、対等なんだ」
「……え?」
「利害の一致とか、ギブアンドテイクとか、そういうんじゃないんだ」
「ベポくん……」
彼の笑顔の中にある意図を察して、口を閉じる。アンに噛まれ続けている右手が痛い。予想外なことが起きた時、思考を逸らしてしまうのは私の悪い癖だと、アンに言われた記憶が蘇える。ああ、これこそが逸れた思考。
二の句が継げぬ私を見て、ベポくんはそっと私の頭を撫でた。
「だから、お返しとかいらない。なまえの荷物を持つのも、服を貸してるのも、おれがしたいからやってるんだ」
彼の言葉に反応したのは、船室に居たシャチさんだ。シャチさんも、いつも私を気にかけてくれている。ペンギンさんも、ローさん、も。
シャチさんは笑いながら私たちに駆け寄り、ベポくんの肩をバシーンッと叩いた。
「な〜ァにかっこつけてんだよ!天使ちゃん天使ちゃん、俺も俺も!何なら昼飯だって作るの手伝うし!」
「なんだよシャチ、なまえの最初の友達はおれだぞ!」
「何楽しそうなことしてんだ?」
「天使ちゃんのお手伝い競争?」
「あんだそりゃ」
続々と集まるクルーの皆に囲まれて、にわかに食堂が騒がしくなる。ベポくんは何故かシャチさんから私を守るように抱えだし、そんなベポくんにアンが吠える。慌てる私に「ベポくん、じゃなくて、ベポでいいよ!なまえは友達だから!」と彼が言った。それに続けて「天使ちゃん、俺もシャチ でいいよ!」「なんか語尾が気味悪ィんだよ馬鹿」「シャチの馬鹿より俺を!」という声が、がやがやと私を取り囲んだ。
「……おい、飯……何してんだ?」
「「「あ、キャプテン」」」
開いた扉から出た声に、顔をそろえて其方を見る。呆れたような顔をしたローさんが、一度口を開いたが、ため息だけを吐き出して口を閉ざす。そして仕方が無さそうに口元を歪めて笑うものだから、私も釣られて苦笑いをこぼすのだった。