6
海から上がり、隣で身体を振ったアンの水飛沫を浴びながら、私も羽をバタバタと震わせて水気を弾く。
何とかエースの率いる海賊船(と思わしき船)にお邪魔すると、そこには先ほど一瞬だけ海の中で出会った男性と、個性豊かな面々が驚愕に顎を落としながら私を見ていた。海軍船から身を乗り出す海兵さん達も何故か同じような顔をしている。
が、今はそれどころではない。
仰向けに倒れ込んでいるエースの顎を持ち上げ、彼の唇に再度、海中でしたように自分の物を合わせ空気をゆっくりと吹き込んだ。
「「『えっえええええええええ!?』」」
「げほっごほっ、ゴホゴホッ……うぇ、水飲んだ……ッ!」
「エース……!」
此方に体を向けたエースの背中を擦る。厚い筋肉に覆われた背中はがっしりとしていて、あの頃とは見違えるようにエースは男の人へと変身していた。
エースは少し噎せたあと、私を見上げ目を瞬く。エースにとってもきっと私の姿は見慣れぬ物になっていただろう。けれど、彼は仮面越しにも私のこと分かってくれた。忘れずに、居てくれた。
「エース、良かった……会えて、嬉しい……!」
ポロリと涙が流れ落ち、エースの頬を伝う。彼はぺろりと自身の濡れた頬を舐めると、私の顔に手を伸ばして、それで、
「て、め、ぇ、は、生きてるなら連絡の一つでもしろこの馬鹿!!」
「きゃああああ!?いたいいたいいたい!!」
私の顔面にアイアンクローをぶちかました。
「こっちはお前が死んだと思って!!どんだけの思いしたと……!!」
「ごめんなさい!ごめんなさいぃ!!」
感動の再会は何処へやら。溢れかけていた涙も見事に引っ込んだ。変わりに痛みによる涙が瞼に貯まる。
もしかしてさっき手を振ってたのは挨拶ではなくこの為に伸ばして居たのだろうか。そんなまさか。米神に食い込む親指がぐりぐりと的確に痛みを与えてきては、私は情けない悲鳴を上げた。
咄嗟にエースの右手にしがみつきそれを顔から外そうとするが指先の力が強くて外れない。慌てたアンがエースの腕にその前足を振り抜いたけれど、エースのがっしりとした腕は炎へと変わりアンの攻撃をすり抜けた。
「あっアン!」
「グルルルルルル……!!」
「んァ?お前の犬……仲間か?」
「おいエースの旦那!今は感動?の再会を果たしてる場合じゃ無いですぜ! 海軍海軍!」
「チッ おいなまえ!お前逃げるなよ!」
「にっ、げたこと無いよ!?」
エースは悪い笑みを浮かべ私の顔から指を外し、準備運動をするかのように身体を伸ばした。
そしてつい先ほど私の顔を握り潰さんとばかりに掴んでいた手に炎を纏い……
「待ってエース!!」
相当な火力を持って海軍船へと腕を振り抜こうとした彼の身体に、横から押し倒す程の力で抱きついた。倒れるかと思ったが、彼は少しばかりも揺れることなく飛びついた私の身体を左手で支える。
また何処かから絶叫とも取れる悲鳴が聞こえたけれど、私はエースの顔を見上げ━━見上げるほど身長に差がついたことに、今さら気が付いた━━出来るだけ冷静に口を開いた。
「エース、待って、あの船には海兵さん以外の人も乗ってるの……!」
「お、おう……お前なんか大胆になったか?」
「今はそんな冗談言ってる場合じゃなくて!」
大胆に感じるのはそもそもエースが半裸だからなのでは無いだろうか。ア、ハイ。エースの硬い声を一度スルーして、私は頭上に光輪を展開する。どうしてか挙動不審なアンに声を飛ばせば彼もそれに倣った。
「大尉殿以外の海兵さん! 食事、ありがとうございました!」
翼は折り畳んだまま、現在地より少し高いところに居る海兵達を見上げる。銃を構えたまま此方を見ていた彼らの、なんとも言えぬ間の抜けた顔付きが元に戻ったのを確認して、私はエースに抱き付いたまま米神に力を入れた。
『「神よ、何人も傷付けぬ、私と彼らを別つ嵐を」』
一際輝いた私とアンの光輪の外周が鋭さを増す。ゆっくりと回転する光の輪が私とアンの後頭部でチカチカと明滅すると、本当に突然、エースの乗った海賊船と海軍船の隙間から竜巻のような風が吹き荒れた。
そしてアンの首回りの毛と、私の髪がウィンプルのなかでバッサリと切られ短くなる。私に関しては体温も下がった気がするけれど、それを圧して私は風の行く末を見守った。
「!? っんだこれ!?」
マスクをつけた淡い髪の男が叫ぶ。雲が沸き立ち雨が降ってきたのを確認した私はエースから身体を離そうとして、固まった。エースの左腕が離れない。
「……エース?」
アンは鼻筋に身体中の皺を集めたかのように顔をしかめると、私の背後に回ってエースを睨み付けた。
が、それも無視してエースは私を再度抱き寄せると、自身の濡れた髪の毛をかきあげ私の顔を見つめる。
目があって、困惑した。先ほどから自分で抱き付きに行ってしまっていた事実が妙に恥ずかしくなって呼吸が止まる。
「お前……。……小さくなったな」
「え、あ、あの、エースサン?」
「……あァ〜なんだかなァ。調子狂うぜホント」
雨風に濡れたまま彼は私を抱きすくめた。視界の端で海軍船が波に押されて離れていく。それはこの船も同じだ。まるで波が意思を持っているかのように、海軍船とは反対の方向へ船が流されている。
エースは先程まで火の灯っていた右手を私の額に当てて、アンと同じように顔をしかめるとそのまま私を担ぎ上げた。
「えっ!?」
「聞きたいことは色々あるけど、とりあえず中入るぞ。なまえの仲間も来い。春島が近いとはいえ、この雨じゃぜってぇ熱だす」
「えっあっ、待って、自分で歩ける!歩けるから!」
わざとらしく聞こえないフリをして、エースは私を米俵のように左肩へと持ち上げる。ぐ、苦しい。再度声をかけてみたものの、彼に私を降ろす気は無いようだった。
足を暴れさせる私も何のそのと室内へ歩き出したエースの後ろを大型犬程のサイズがあるアンが追いかけ、さらにその後ろを大きな猫が着いてきているのが見えた。
「エースの旦那がみょ〜に面倒見良いのって……」
「言うな、スカル。それ以上」
髑髏を頭に被った男とマスクの男が頭を振っては呟きが雨風に晒されている甲板に響き、我に返った船員達は急いで船の帆を畳みに走った。
★
「エース、エース、その、本当にごめんなさい。私、自分が死んだことになってるだなんて思い当たらなくて……。昔住んでた島に帰れたら、コルボ山に帰ろうって思ってたの。だから、その……」
可哀想なほど身を縮こまらせ、エースを見上げ言いつのる天使の姿のなんて可憐なことか。
少なくとも俺は身体を小さくしながら羽を無為にパサパサと動かし、上目遣いで見上げてくる彼女をそれ以上無下にすることなど出来やしない。
というか、今この船に居る誰もがそんなこと出来ないだろうことがその顔から容易に伺えた。スカルやミハール等一部顔が見えない奴らも居るが。
「あの……お、怒らないでエース」
「……っはァ〜〜、ったく!もう怒ってねェよ!」
がしがしと頭を掻くエースはそう言って、持っていたタオルを天使の頭目掛けて投げつけた。「わぶっ」という間の抜けた声がしたかと思えば、彼女の背後を陣取って居た翼の生えた大型の狼?が抗議して鋭く吠える。
天使はそれを宥めるように鼻筋に手をやったかと思うと、みごとに噛まれて手を引いた。いや仲間なんじゃねェのかよ。少なくともペットで無いことは確かだった。
「あ、あの……エースのお仲間さん達も、ご迷惑をおかけしてごめんなさい」
控え目に告げられた言葉と天使の視線の先には俺が居た。え、俺が返事するの?天使に?周りをチラリと横目で伺ったけれど見事に逸らされる。エースの視線が怖くてそちらは見れず、仕方なく俺は彼女に向かって愛想笑いをして――
――天使と再度目が合い、俺は固まった。
暗い暗い夜の海で水底を覗き込んだ時に見える汚泥のような暗闇が俺を捉えている。彼女は感じの良い表情を確かに浮かべている筈なのに、その皮膚の裏側に恐ろしい、おぞましい何かが隠れて居るようで、思わず一歩後ずさった。
挙動不審な俺をいぶかしみ、天使が小首を傾げる。周りの音が聞こえなくなって行くのを感じて、
「デュース?」
ハッと我に返った。エースが俺を見て眉を上げている。他の船員達も「おいおい緊張しすぎだぜ」「デューの旦那ああ見えてウブだから」とからかうようにして俺を囃し立てる声に視界が開けるようだった。
天使は相変わらず重苦しい修道服を身に付けたままタオルで身体を覆い、話が船の紅一点であるおばちゃんに構われている。
「あ、す、すまねェ。なんかぼーっとしちまった」
「天使ちゃんに一目惚れかおい」
「誰が船長の女に手ェ出すか馬鹿!!」
「ぶぁっ!?げっほ、ごほっ、おま、デュースてめェ、なまえはそんなんじゃ……!!」
エースは飲んでいた酒と思わしき液体を吹き出し樽ジョッキを机に叩きつけた。口から飛び出たそれがかかり、俺をからかったクルーが大袈裟に文句をつけてはエースが謝罪と共に笑う。
さて件の天使は、とスカルがにやにやと(あくまで雰囲気で判断)した顔で彼女を見やると、いつの間にか増やされたタオルにくるまれ、顔を真っ赤にさせた天使が固まっていた。
「……あー……甘酸っっぱ」
「おい俺ら邪魔じゃねェか?ていうかもうこの部屋に居られねーんだけど?」
「なんか全身むず痒くなってきた……おれも出るわ」
「お、ま、え、ら!何なんだよ!おいなんだその笑いは!おい!!あァ!?」
続々とエースの肩を叩いて去っていくクルーに続き俺も部屋を出る。仲間たちと扉をくぐれば、先程の恐ろしさなぞ初めから無かったかのように忘れてしまっていた。
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何とかエースの率いる海賊船(と思わしき船)にお邪魔すると、そこには先ほど一瞬だけ海の中で出会った男性と、個性豊かな面々が驚愕に顎を落としながら私を見ていた。海軍船から身を乗り出す海兵さん達も何故か同じような顔をしている。
が、今はそれどころではない。
仰向けに倒れ込んでいるエースの顎を持ち上げ、彼の唇に再度、海中でしたように自分の物を合わせ空気をゆっくりと吹き込んだ。
「「『えっえええええええええ!?』」」
「げほっごほっ、ゴホゴホッ……うぇ、水飲んだ……ッ!」
「エース……!」
此方に体を向けたエースの背中を擦る。厚い筋肉に覆われた背中はがっしりとしていて、あの頃とは見違えるようにエースは男の人へと変身していた。
エースは少し噎せたあと、私を見上げ目を瞬く。エースにとってもきっと私の姿は見慣れぬ物になっていただろう。けれど、彼は仮面越しにも私のこと分かってくれた。忘れずに、居てくれた。
「エース、良かった……会えて、嬉しい……!」
ポロリと涙が流れ落ち、エースの頬を伝う。彼はぺろりと自身の濡れた頬を舐めると、私の顔に手を伸ばして、それで、
「て、め、ぇ、は、生きてるなら連絡の一つでもしろこの馬鹿!!」
「きゃああああ!?いたいいたいいたい!!」
私の顔面にアイアンクローをぶちかました。
「こっちはお前が死んだと思って!!どんだけの思いしたと……!!」
「ごめんなさい!ごめんなさいぃ!!」
感動の再会は何処へやら。溢れかけていた涙も見事に引っ込んだ。変わりに痛みによる涙が瞼に貯まる。
もしかしてさっき手を振ってたのは挨拶ではなくこの為に伸ばして居たのだろうか。そんなまさか。米神に食い込む親指がぐりぐりと的確に痛みを与えてきては、私は情けない悲鳴を上げた。
咄嗟にエースの右手にしがみつきそれを顔から外そうとするが指先の力が強くて外れない。慌てたアンがエースの腕にその前足を振り抜いたけれど、エースのがっしりとした腕は炎へと変わりアンの攻撃をすり抜けた。
「あっアン!」
「グルルルルルル……!!」
「んァ?お前の犬……仲間か?」
「おいエースの旦那!今は感動?の再会を果たしてる場合じゃ無いですぜ! 海軍海軍!」
「チッ おいなまえ!お前逃げるなよ!」
「にっ、げたこと無いよ!?」
エースは悪い笑みを浮かべ私の顔から指を外し、準備運動をするかのように身体を伸ばした。
そしてつい先ほど私の顔を握り潰さんとばかりに掴んでいた手に炎を纏い……
「待ってエース!!」
相当な火力を持って海軍船へと腕を振り抜こうとした彼の身体に、横から押し倒す程の力で抱きついた。倒れるかと思ったが、彼は少しばかりも揺れることなく飛びついた私の身体を左手で支える。
また何処かから絶叫とも取れる悲鳴が聞こえたけれど、私はエースの顔を見上げ━━見上げるほど身長に差がついたことに、今さら気が付いた━━出来るだけ冷静に口を開いた。
「エース、待って、あの船には海兵さん以外の人も乗ってるの……!」
「お、おう……お前なんか大胆になったか?」
「今はそんな冗談言ってる場合じゃなくて!」
大胆に感じるのはそもそもエースが半裸だからなのでは無いだろうか。ア、ハイ。エースの硬い声を一度スルーして、私は頭上に光輪を展開する。どうしてか挙動不審なアンに声を飛ばせば彼もそれに倣った。
「大尉殿以外の海兵さん! 食事、ありがとうございました!」
翼は折り畳んだまま、現在地より少し高いところに居る海兵達を見上げる。銃を構えたまま此方を見ていた彼らの、なんとも言えぬ間の抜けた顔付きが元に戻ったのを確認して、私はエースに抱き付いたまま米神に力を入れた。
『「神よ、何人も傷付けぬ、私と彼らを別つ嵐を」』
一際輝いた私とアンの光輪の外周が鋭さを増す。ゆっくりと回転する光の輪が私とアンの後頭部でチカチカと明滅すると、本当に突然、エースの乗った海賊船と海軍船の隙間から竜巻のような風が吹き荒れた。
そしてアンの首回りの毛と、私の髪がウィンプルのなかでバッサリと切られ短くなる。私に関しては体温も下がった気がするけれど、それを圧して私は風の行く末を見守った。
「!? っんだこれ!?」
マスクをつけた淡い髪の男が叫ぶ。雲が沸き立ち雨が降ってきたのを確認した私はエースから身体を離そうとして、固まった。エースの左腕が離れない。
「……エース?」
アンは鼻筋に身体中の皺を集めたかのように顔をしかめると、私の背後に回ってエースを睨み付けた。
が、それも無視してエースは私を再度抱き寄せると、自身の濡れた髪の毛をかきあげ私の顔を見つめる。
目があって、困惑した。先ほどから自分で抱き付きに行ってしまっていた事実が妙に恥ずかしくなって呼吸が止まる。
「お前……。……小さくなったな」
「え、あ、あの、エースサン?」
「……あァ〜なんだかなァ。調子狂うぜホント」
雨風に濡れたまま彼は私を抱きすくめた。視界の端で海軍船が波に押されて離れていく。それはこの船も同じだ。まるで波が意思を持っているかのように、海軍船とは反対の方向へ船が流されている。
エースは先程まで火の灯っていた右手を私の額に当てて、アンと同じように顔をしかめるとそのまま私を担ぎ上げた。
「えっ!?」
「聞きたいことは色々あるけど、とりあえず中入るぞ。なまえの仲間も来い。春島が近いとはいえ、この雨じゃぜってぇ熱だす」
「えっあっ、待って、自分で歩ける!歩けるから!」
わざとらしく聞こえないフリをして、エースは私を米俵のように左肩へと持ち上げる。ぐ、苦しい。再度声をかけてみたものの、彼に私を降ろす気は無いようだった。
足を暴れさせる私も何のそのと室内へ歩き出したエースの後ろを大型犬程のサイズがあるアンが追いかけ、さらにその後ろを大きな猫が着いてきているのが見えた。
「エースの旦那がみょ〜に面倒見良いのって……」
「言うな、スカル。それ以上」
髑髏を頭に被った男とマスクの男が頭を振っては呟きが雨風に晒されている甲板に響き、我に返った船員達は急いで船の帆を畳みに走った。
★
「エース、エース、その、本当にごめんなさい。私、自分が死んだことになってるだなんて思い当たらなくて……。昔住んでた島に帰れたら、コルボ山に帰ろうって思ってたの。だから、その……」
可哀想なほど身を縮こまらせ、エースを見上げ言いつのる天使の姿のなんて可憐なことか。
少なくとも俺は身体を小さくしながら羽を無為にパサパサと動かし、上目遣いで見上げてくる彼女をそれ以上無下にすることなど出来やしない。
というか、今この船に居る誰もがそんなこと出来ないだろうことがその顔から容易に伺えた。スカルやミハール等一部顔が見えない奴らも居るが。
「あの……お、怒らないでエース」
「……っはァ〜〜、ったく!もう怒ってねェよ!」
がしがしと頭を掻くエースはそう言って、持っていたタオルを天使の頭目掛けて投げつけた。「わぶっ」という間の抜けた声がしたかと思えば、彼女の背後を陣取って居た翼の生えた大型の狼?が抗議して鋭く吠える。
天使はそれを宥めるように鼻筋に手をやったかと思うと、みごとに噛まれて手を引いた。いや仲間なんじゃねェのかよ。少なくともペットで無いことは確かだった。
「あ、あの……エースのお仲間さん達も、ご迷惑をおかけしてごめんなさい」
控え目に告げられた言葉と天使の視線の先には俺が居た。え、俺が返事するの?天使に?周りをチラリと横目で伺ったけれど見事に逸らされる。エースの視線が怖くてそちらは見れず、仕方なく俺は彼女に向かって愛想笑いをして――
――天使と再度目が合い、俺は固まった。
暗い暗い夜の海で水底を覗き込んだ時に見える汚泥のような暗闇が俺を捉えている。彼女は感じの良い表情を確かに浮かべている筈なのに、その皮膚の裏側に恐ろしい、おぞましい何かが隠れて居るようで、思わず一歩後ずさった。
挙動不審な俺をいぶかしみ、天使が小首を傾げる。周りの音が聞こえなくなって行くのを感じて、
「デュース?」
ハッと我に返った。エースが俺を見て眉を上げている。他の船員達も「おいおい緊張しすぎだぜ」「デューの旦那ああ見えてウブだから」とからかうようにして俺を囃し立てる声に視界が開けるようだった。
天使は相変わらず重苦しい修道服を身に付けたままタオルで身体を覆い、話が船の紅一点であるおばちゃんに構われている。
「あ、す、すまねェ。なんかぼーっとしちまった」
「天使ちゃんに一目惚れかおい」
「誰が船長の女に手ェ出すか馬鹿!!」
「ぶぁっ!?げっほ、ごほっ、おま、デュースてめェ、なまえはそんなんじゃ……!!」
エースは飲んでいた酒と思わしき液体を吹き出し樽ジョッキを机に叩きつけた。口から飛び出たそれがかかり、俺をからかったクルーが大袈裟に文句をつけてはエースが謝罪と共に笑う。
さて件の天使は、とスカルがにやにやと(あくまで雰囲気で判断)した顔で彼女を見やると、いつの間にか増やされたタオルにくるまれ、顔を真っ赤にさせた天使が固まっていた。
「……あー……甘酸っっぱ」
「おい俺ら邪魔じゃねェか?ていうかもうこの部屋に居られねーんだけど?」
「なんか全身むず痒くなってきた……おれも出るわ」
「お、ま、え、ら!何なんだよ!おいなんだその笑いは!おい!!あァ!?」
続々とエースの肩を叩いて去っていくクルーに続き俺も部屋を出る。仲間たちと扉をくぐれば、先程の恐ろしさなぞ初めから無かったかのように忘れてしまっていた。