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快晴だ。澄み渡るような空に、少しの白い雲。風は強いけれど決して冷たくなく、爽やかな心地にさせてくれる。
修道服の裾がカーテンのように靡いては私の足にくっつき、髪の毛を隠すベールはその用途を放棄した。
ワタリドリが持ってきてくれた手紙を片手に、私はうーん、と大きく伸びをした。
「うん、良い天気ね、アン」
「ふゎぁ……」
もう、横着して。返事の代わりに欠伸を返した相棒の頭を撫でて、船の手摺へと足をかけた。
「お?天使様、もう行くのか?」
「なんだよ、朝飯食ってけよ」
「そーそー、急いでるわけでもないんだろ?」
気さくに声をかけてきたのは、少しの間お世話になった商船の船員さん達だった。頭にバンダナを巻いて、肩にロープの束を抱えているその姿は商船の船員というよりは、どちらかというと海賊を思わせるけれど、恐らくここいらの海に出る船員さんは皆同じようなものだ。
「ありがとうございます。でも、身体が重くなるとあんまり飛べなくなっちゃうので……」
苦笑いと共に返事をすれば、船員さん達はガハハ、と大きく笑って、「そりゃあ女の子にとっても天使様にとっても重大な問題だ」と言った。そうですよ。重大な問題なんですよ。そう返せばまた笑われた。気持ちの良い人達だ。だからつい、何度もお世話になってしまうのよね。
船員さん達に別れを告げて、私は手摺を蹴り、空へと飛び出した。アンもそれに続いて大きな羽音を立てる。
飛んでいる間は気にならないけれど、飛び立つ瞬間は毎回スカートの裾が気になってしょうがない。どうにかならないものかと少しまごついている間に、船室から一人の少年が飛び出してきた。
「天使様ー!次はいつお帰りですかー!?」
少年はこの商船の持ち主の息子さんだ。私は少し悩んで、声を返した。
「しばらく帰りませーん!」
そう。なんてったって、私はこれからサボに会いに行って、エースに会いに行って、そして末の弟に会いに行くのだから!
にわかに騒がしくなった船から少年の悲鳴ともつかぬ叫びが聞こえた気がしたけれど、私は構わず背を向けた。
此処は『元・天使の島』、マホロバ島。私の生まれ故郷があった島であり、天使達の眠る島。穏やかな春の陽気に包まれる島から離れ、私は新世界へと向かうため、手紙に同封されたエターナルポースを手首に巻き付けた。
『サボから行くのか?』
『うん、そのつもり。手紙はマルコさんからだけど、白髭さんの船は新世界でも奥の方でしょう?』
『そういえばそうだったな……七面倒臭い。あいつらが来いというのだ、全く』
『あはは、エースはともかくサボはフラフラ出来ないんじゃないかなぁ。それに、調度ルフィにも会いに行きたいと思ってたところだもの』
ルフィと分かれてから、七年が経つ。サボやエースとは色々あって海で再開出来たけれど、ルフィに関してはまだ東の海だったから会いに行けて居なかった。私とアンは頭上に光の輪を携えて、まさしく天使の名に似つかわしい姿で青海を渡る。
ああ、楽しみだ。『天使の島』が小さくなっていく。商船は既に小さな影だ。次々と寄ってきたワタリドリ達に挨拶をしつつ、私は神に祈った。
神様、神様、また此処に帰ってきます。今は弟達に会いに行くのを許してくださいね。
『神よ、サボの居場所を教えてくださいな』
『はぁ……お前は本当に馴染んだな。馴染みすぎだ。もっと神を敬え』
『ふふふ、勿論敬っているし、愛しているわ。アン、光輪を繋いで』
『フン、兄弟たちとの光輪も済んでいる。お前が遅いのだ』
『も、も〜……意地悪なんだから』
一度だけきらりと頭上が輝いて、神の言葉がアンへと流れ込む。そしてアンから島に居る兄弟たちに流れて、そして正確な予想が戻ってきた。この間およそ三秒。情報戦なら負ける気はしない、と思ったけれど、そもそも情報戦をする機会も無ければ必要も無い。皆を自慢したい気持ちがあったのになァ。
つらつらと取り留めも無く考えて居れば、アンから何とも言えぬ感情を向けられ其方に目をやった。
『普段は以心伝神ばかりだから忘れてるのだろうが……光輪を繋いでいる間は思考も共有される。馬鹿め』
……私は努めて頭を真っ白にしたけれど、当然それもバレバレだった。
アンの呆れ、島に居る兄弟達の笑いがこちらに響いてくる。
ああああ、ひ、久しぶりだから忘れてた。忘れてました。っていうか今まではアンとしか光輪を繋いでなかったから、本当にうっかりしていたというか何と言いますか。
鳥達までもが微笑ましそうに私を見る。齢二十一歳にして、五才にもなっていない鳥達に生ぬるい目を向けられるとは……。
頭上の光はそのままに光輪の繋がりだけを打ち切って、私は強く翼を空気に打ち付けた。雲に入る前にゴーグルを目にかけて、さらにスピードを上げれば、ついてこれるのはアンだけになる。大人げないと思いつつも、私は鳥達やアンの兄弟から隠れるように雲の中を進むのだった。
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修道服の裾がカーテンのように靡いては私の足にくっつき、髪の毛を隠すベールはその用途を放棄した。
ワタリドリが持ってきてくれた手紙を片手に、私はうーん、と大きく伸びをした。
「うん、良い天気ね、アン」
「ふゎぁ……」
もう、横着して。返事の代わりに欠伸を返した相棒の頭を撫でて、船の手摺へと足をかけた。
「お?天使様、もう行くのか?」
「なんだよ、朝飯食ってけよ」
「そーそー、急いでるわけでもないんだろ?」
気さくに声をかけてきたのは、少しの間お世話になった商船の船員さん達だった。頭にバンダナを巻いて、肩にロープの束を抱えているその姿は商船の船員というよりは、どちらかというと海賊を思わせるけれど、恐らくここいらの海に出る船員さんは皆同じようなものだ。
「ありがとうございます。でも、身体が重くなるとあんまり飛べなくなっちゃうので……」
苦笑いと共に返事をすれば、船員さん達はガハハ、と大きく笑って、「そりゃあ女の子にとっても天使様にとっても重大な問題だ」と言った。そうですよ。重大な問題なんですよ。そう返せばまた笑われた。気持ちの良い人達だ。だからつい、何度もお世話になってしまうのよね。
船員さん達に別れを告げて、私は手摺を蹴り、空へと飛び出した。アンもそれに続いて大きな羽音を立てる。
飛んでいる間は気にならないけれど、飛び立つ瞬間は毎回スカートの裾が気になってしょうがない。どうにかならないものかと少しまごついている間に、船室から一人の少年が飛び出してきた。
「天使様ー!次はいつお帰りですかー!?」
少年はこの商船の持ち主の息子さんだ。私は少し悩んで、声を返した。
「しばらく帰りませーん!」
そう。なんてったって、私はこれからサボに会いに行って、エースに会いに行って、そして末の弟に会いに行くのだから!
にわかに騒がしくなった船から少年の悲鳴ともつかぬ叫びが聞こえた気がしたけれど、私は構わず背を向けた。
此処は『元・天使の島』、マホロバ島。私の生まれ故郷があった島であり、天使達の眠る島。穏やかな春の陽気に包まれる島から離れ、私は新世界へと向かうため、手紙に同封されたエターナルポースを手首に巻き付けた。
『サボから行くのか?』
『うん、そのつもり。手紙はマルコさんからだけど、白髭さんの船は新世界でも奥の方でしょう?』
『そういえばそうだったな……七面倒臭い。あいつらが来いというのだ、全く』
『あはは、エースはともかくサボはフラフラ出来ないんじゃないかなぁ。それに、調度ルフィにも会いに行きたいと思ってたところだもの』
ルフィと分かれてから、七年が経つ。サボやエースとは色々あって海で再開出来たけれど、ルフィに関してはまだ東の海だったから会いに行けて居なかった。私とアンは頭上に光の輪を携えて、まさしく天使の名に似つかわしい姿で青海を渡る。
ああ、楽しみだ。『天使の島』が小さくなっていく。商船は既に小さな影だ。次々と寄ってきたワタリドリ達に挨拶をしつつ、私は神に祈った。
神様、神様、また此処に帰ってきます。今は弟達に会いに行くのを許してくださいね。
『神よ、サボの居場所を教えてくださいな』
『はぁ……お前は本当に馴染んだな。馴染みすぎだ。もっと神を敬え』
『ふふふ、勿論敬っているし、愛しているわ。アン、光輪を繋いで』
『フン、兄弟たちとの光輪も済んでいる。お前が遅いのだ』
『も、も〜……意地悪なんだから』
一度だけきらりと頭上が輝いて、神の言葉がアンへと流れ込む。そしてアンから島に居る兄弟たちに流れて、そして正確な予想が戻ってきた。この間およそ三秒。情報戦なら負ける気はしない、と思ったけれど、そもそも情報戦をする機会も無ければ必要も無い。皆を自慢したい気持ちがあったのになァ。
つらつらと取り留めも無く考えて居れば、アンから何とも言えぬ感情を向けられ其方に目をやった。
『普段は以心伝神ばかりだから忘れてるのだろうが……光輪を繋いでいる間は思考も共有される。馬鹿め』
……私は努めて頭を真っ白にしたけれど、当然それもバレバレだった。
アンの呆れ、島に居る兄弟達の笑いがこちらに響いてくる。
ああああ、ひ、久しぶりだから忘れてた。忘れてました。っていうか今まではアンとしか光輪を繋いでなかったから、本当にうっかりしていたというか何と言いますか。
鳥達までもが微笑ましそうに私を見る。齢二十一歳にして、五才にもなっていない鳥達に生ぬるい目を向けられるとは……。
頭上の光はそのままに光輪の繋がりだけを打ち切って、私は強く翼を空気に打ち付けた。雲に入る前にゴーグルを目にかけて、さらにスピードを上げれば、ついてこれるのはアンだけになる。大人げないと思いつつも、私は鳥達やアンの兄弟から隠れるように雲の中を進むのだった。