ひまわりに落ちる 11



杏寿郎からデートのお誘いの電話があった次の日の夜、仕事終わりの杏寿郎がやってきた。

「今日父上と母上、千寿郎が舞台を見に行って不在にしていてな。」
「瑠火さんが今朝そんなこと話してたね。今ちょうどご飯を作ってるの。杏寿郎も一緒に食べようよ」
「うむ。デザートにプリンを買ってきた。今夜の夕飯は何だ?」
「やったー!ありがとう!もう少し待っててね。今夜はてり玉チキン丼とお味噌汁だよ。」
「美味そうだ!何か手伝うぞ!」
「ありがとう。サラダが冷蔵庫に入ってるからドレッシングもついでに持っていって。」
「承知した!」

食事の準備が整い、「いただきます」と食事を始める。

「うまい!わっしょい!うまい!」
「ほんと?よかった!なんか今日ガッツリしたの食べたかったんだよねー」

今日あったことなどをお互いに話す。
槇寿郎さんと瑠火さんがテスト前の千寿郎くんを舞台に連れていったのはいつも頑張りすぎて根を詰めすぎるから息抜きに連れていった、ということらしい。

「おかわりできるか?」
「うん。お茶碗ちょうだい。」

このやり取り、なんか夫婦みたいだなぁと思いながらどんぶりにご飯をつぎ、照り焼きチキン、半熟の温泉卵をのせる。

「はい。どうぞ」
「ありがとう!そういえばタケ。行きたいところ決まったか?」
「それがさ。行ってみたいところ多すぎてよくわかんなくなっちゃった。杏寿郎はどこか行きたいところある?」
「タケと一緒にいれるのであればどこでもいい!」
「ええ?!何言ってんの?!もう少し真面目に考えてよ!」

杏寿郎が持ってたどんぶりをテーブルに置いた。「うむ…」といい、考えこんでいる。

「ま、まだ時間あるんだし、ゆっく「例えば、あくまでも例えばなんだが…」

ゆっくり考えないか、そう提案しようとしたらそれに被せるよう杏寿郎が意を決したように言葉を発した。

「俺の行きたいところが少し遠くてな。日帰りではなくて泊まりがけで行きたいって言ったらどうする?」

ヒュッと息を呑んでしまった。
これはどう答えるのが正解なの?両手をあげて喜んだらはしたないと言われるのかな。
それとも日帰りで行けそうな代案を言って欲しいがためにそんなこと言ってるの?てか普通のデートとかチューとか何もかも飛び越えてお泊まりデート?!何か言わないと…

「あ…あ…ホテルはシングル2部屋デスカ…イッショノヘヤデスカ?」
「よもや!!」

沈黙が食卓に流れる。やってしまった…何言ってんだよ私…
その沈黙を破ったのは眉尻を下げた杏寿郎だった。

「タケ。困らせるようなことを言ってすまない。俺の行きたいところは実際1人や家族とでもいけるからな。行きたいところが決まったら教えてくれ。」
「わかった…」
「よし!今日はこの話は終わりだ!プリンを食べよう!」

美味しそうなプリンだったのに味がしなかった。なのに杏寿郎に気を遣わせたくなくて「美味しい!美味しい!このプリン最高!」と一気に食べ、食器を洗うためにそそくさとキッチンへ引っ込んだ。


そりゃお泊まりデートとかいつかはできるといいなぁとか思ってたよ。杏寿郎から誘ってくれるとか嬉しいんだよ。
なんですぐに「行く」って言えなかったんだよ…馬鹿…
なに盛った動物みたいに「チューをまだしてないから…」とか考えてたんだよ…
食器を洗いながら悶々としていた。

「タケ。」

名前を呼ばれて振り返ろうとした。
でも、振り返れなかった。

背中から伝わるのは私よりも暖かい、彼の体温。
私のお腹にまわる逞しい杏寿郎の腕。
抱きしめられてると脳が認識すると同時に私の体温も上がった。

「さっき言ったこと、気にしてるか?その…泊まりがけでっていう…」

いつもの杏寿郎からは想像できない小さい、けどいつものように優しい声。

「気にしてるっていうか…なんというか…まさか杏寿郎からお泊まりの提案があるとは思わなくて驚いたかな。」
「すまない…嫌だったか?」
「嫌じゃないよ!私も杏寿郎との初めてのデートだし、楽しみだし、行きたいところ多すぎて悩んでるくらいだし。お泊まりとか全然平気!泊まろう!」

お腹にまわる腕の力がギュッと少し強くなった。耳元で杏寿郎が呟き、首に何か当たる感覚。

「ありがとう。」

え…いま首に杏寿郎の唇当たってなかった…?

「そんな技どこで覚えたのよ…」

へなへなとその場に座り込んでしまう。腰が抜けた。「立てない…」と言うと「残りの食器は俺が洗う!」と残りは杏寿郎が全てやってくれた。




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