ひまわりに落ちる 12


意気込んで「泊まる」発言をしてから1ヶ月。
その間杏寿郎はテスト、採点、予定外の保護者会、教育委員会(これは冨岡くんの付き添い)、そして進路指導と目まぐるしく働き回っていた。
私も時期的に繁忙期に入り、残業に接待にとお互いバタバタして朝ごはんくらいしかまともに顔を合わせてなかった。お互い忙しすぎて同じタイミングで出勤もできず。

メッセージアプリのやりとりと電話のみで決まったデートの行き先は杏寿郎が提案してくれたものになった。

職場の先輩に言うとニヤニヤしながらも「いいねいいね。温泉私も行きたい」と言われた。
ホテルは宇髄君のおすすめという所にした。建物自体も綺麗で温泉の質や食事の評判もかなり良さそうだ。
予約は杏寿郎が取るということでお言葉に甘えることにした。(私が予約取ると言ったのに杏寿郎が譲らなかった。)

槇寿郎さんと瑠火さんに出かけてくる旨を先に伝えると、行先の温泉街で売ってる人気のお菓子を買ってきて欲しいと頼まれた。
お土産たくさん買おう。


旅行前日。
仕事終わりに先輩に引っ張られるようにして連れて行かれた先はショッピングモール。

「さあ、ここで明日の買い物をするわよ!漲るわー!」
「先輩…なんでそんな張り切ってるんですか…」
「そりゃ可愛い後輩の初デートだもの!しかもお泊まり!私がフルコーデしてあげる!女をあげるのよ!」

そう言うといろんなお店に入っていき、こうでもない、ああでもないと洋服を当てられる。完全に着せ替え人形状態だ。

数件見て周り、仕事でも使えそうなトップスとパンツを買った。
さあ、もうそろそろお開きになるだろうと思ったら「最後に一件!いくわよー!」と連れて行かれた先にあったのは下着のお店。

「先輩…もう充分買いましたよ。帰りましょか…」
「何言ってんの!ここが1番の山場よ!勝負下着を買わなきゃ!持ってないでしょ?」
「ショウブシタギ…」
「何があるかわからないんだから!一セットくらい買いなさい!むしろこれは私からの餞別よ。5着くらい好きなのを取りなさい!」

「そんなの必要ない」と言ったらキッと睨まれた。怖い。それに怯えながらも見て回ったが可愛いデザインが沢山あり、やっぱり自分で買うことにした。
スタッフにサイズを測ってもらってから店内をぐるぐる見てまわる。ふと横をみると薄ピンクのかわいい総レースデザインの上下セットがあった。手に取ってサイズを確認する。よし。ちょうどのサイズ。

結局それと先輩が選んだシルクの真っ赤に黒レースなガッツリセクシーの2セットと「これは絶対使いなさい!」といい匂いのするボディクリームを先輩がプレゼントしてくれた。
使うかわからないが、可愛い下着を持ってるだけで気分が上がる気がした。
ボディクリームもジャスミンやホワイトリリーのさりげなく優しい香りで癒される。
先輩が選んだ下着は…着用する日が来るのだろうか…

「先輩。今日はありがとうございました。」
「いいえー。先輩は可愛い後輩の恋を応援してるよー!明日から楽しんできてね!」

駅前で別れ、電車に乗る。
スマホを確認してみると杏寿郎からメッセージが届いていた。結構前に届いていたのに気づかなかった。

『今日も帰りが遅そうだな。駅まで迎えに行こうか?』
「おつかれさま。今電車に乗ったところで、1人で帰れるから大丈夫だよ。」
『わかった。ではまた明日。おやすみ。』
「おやすみなさい」

駅に着いた。
電車を降り、家に帰りつき、お風呂に入る。その前にさっき買った下着のタグを外し、一度洗濯機に入れ乾燥までセットさせる。
お風呂から上がった頃には乾燥まで終わっていた。
とりあえず総レースのセットといつも着慣れてる下着のセットと2セット用意する。先輩すみません…マツはセクシー下着を着こなす自信ありません…いつかの日に取っときます…と心の中で先輩に懺悔し、ボディクリームを塗って癒されてから部屋の電気を消した。


だけど布団の中に入ったはいいものの、楽しみでなかなか寝付けなかった。

隣の部屋はまだ電気がついていた。




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