君と幸せを紡ぐ
やっと終わった仕事にひとつ息を吐いてPCの電源を落とす。
あのクソ上司自分の仕事押し付けやがって、と仕事を押し付けて定時に帰っていった上司に悪態を吐きながら帰る準備を済ませた。
外へ出るとぴゅう、と冷たい風が吹いて思わず肩をすくめてマフラーをぐいっとあげる。早く家へ帰ろう。あ、途中でお酒を買うのもいいかもしれない、そんなことを考えながら歩く足を少し早く進めた。
寒さに震えながら家に着いてくたびれたパンプスを適当に脱いだら、一直線にお風呂へ向かってまずお湯を溜めるためにボタンを押してからキッチンへ。
明日は休みだから、と帰る途中に寄ったコンビニで買った缶チューハイの入った袋をがさっと雑に置いて、鼻歌なんて歌いながら中身を冷蔵庫へ入れていく。
全て入れ終わって一息ついたところで、お風呂のお湯が溜まったことを知らせる音楽が私の下手な鼻歌と妙にマッチした。冷えた体を早く暖めようとお風呂へ向かい、最近お気に入りの入浴剤を入れると心がぽかぽかしてくる。はぁ、と息を吐いて最近会えてない恋人の顔を思い浮かべた。
ちゃんとご飯食べてるかな、ちゃんと寝てるかな、なんてまるで母親の様な心配を、彼にはついついしてしまう。そんなことを考えているといきなりガチャ、とお風呂のドアが開いた。
「えっ」
「…風呂に入るなら鍵くらいかけろ」
「えっ、ゆ、え!?」
一言、残してパタンと閉まったドアに呆然とした。さっきまで頭の中で思い浮かべていた恋人が目の前にいきなり現れたのだから。
ゆっくり半身浴でもしようかな、なんて考えはどこへやら。慌てて頭と体を洗い、すぐにお風呂を出た私はリビングへバタバタと走った。
「ゆ、ゆ優くん!なんでいるの!?」
「なんでもなにも、合鍵を渡したのはお前だろ」
「いや、そりゃ渡したけど…」
来るなら連絡くらいしてよ、と拗ねたように呟くと彼、優くんは自分が座っているソファの隣をぽんぽんと叩いた。私の恋人は少し自由なところがある。
そんな優くんにいいなりになるのは少し悔しかったが、久しぶりに会えたことが嬉しくて素直に隣へ座った。
「忙しいのにきてくれたの?」
「別に。たまたま近くを通っただけ」
「ふふ、そっかぁ…でも優くんに会いたかったから嬉しいなぁ」
近くを通っただけ、なんて。都会から少し離れた私の家の近くでKYOHSOのベーシストである優くんが仕事をする様な場所はないだろう。
優くんの可愛い照れ隠しに私はついにやにやとしてしまう。普段ならここで「何ニヤついてるんだ。気持ち悪い」とか言われるんだろうけど、私のにやけ顔をまじまじと見た優くんは珍しくふっと笑って両手を広げた。
その意味がわかっていたが少し躊躇うフリをして見せると、ため息を零した優くんは私の腕をぐいっと引っ張って膝の上に乗せた。
「わっ、ちょっと、びっくりした!」
「早く来ないあんたが悪い」
「もう、強引すぎるよ」
「久しぶりに会えたんだからこれぐらいいいだろ」
「……重くない?」
「平気。それより、」
優くんが頬を撫でたのを合図に私は目を閉じる。
優くんの少し冷たくて薄い唇に自分のものを重ねて、子どもが遊ぶ様にただ触れるだけのキスをしていく。
何度かそうする内に、焦れったいと言わんばかりに優くんが私の唇を舐めてきた。
「そんなんじゃ足りない」
「ん、」
優くんの舌がスルスルと入ってきて私の舌を絡め取る。優くんとのキスは何だか甘い味がして、それに夢中になる。顎を伝ったのはどちらのものだったのだろう。ぽわぽわと段々、優くんとのキスで思考力まで奪われていく。息をするのも苦しくなってきた辺りで優くんが離れていった。
「ねぇ、あんたの熱をもっと感じたい」
「ん、私も…」
ソファに優しく押し倒されて私の視界には真っ白の天井と余裕のなさそうな優くんだけになった。
「ゆ、くん…もっと」
「…ん、会えなかった分覚悟しといて」
「うん……」
優くんの熱に溺れる間、たくさんのキスが降ってきた。もうどちらの熱かわからなくなるくらいぐちゃぐちゃになったとき、なかなか優くんからは聞けない「すき」という言葉が降ってきた。
私もだと伝えたいのに、優くんが私の弱いところに触れているせいで、口からはみっともない声しか出てこなかった。
それでも私の「すき」を伝えたくて、たくさんのキスを彼に返した。
「なまえといると幸せって何か分かる気がする」
そう言って優しく笑った彼の顔が私の滲んだ視界に写っていた。