生理痛 × 天喰環


女の子にとって月に一回の地獄の一週間。と言っても、私が最も酷いのは2日〜3日目の2日間だけど。
その2日間はお腹の痛みが酷くて血液の量も多くて貧血にもなるし酷い月にはベッドから起き上がれない。
今月はその酷い月だった。

「あああ、あ、いた、いたい」

自分の部屋のベッドの上でうずくまり、一番楽な体制を探す。下っ腹のズキズキとした痛みと腰のだるくて、足や手の先も冷たくなっていた。薬を飲んで、効いてくるのを大人しく待つ。今日は動かずにゆっくりしていたい、そう思っていたのに。
ピンポン、と部屋に来客を知らせる音が鳴る。こんなときに誰?と思ったけど、あまりの痛みとだるさで動けないため、来てくれた人には悪いけど居留守を使おうと決めた。静かにしていると枕元に置いていた携帯が鳴り響き、画面を見ると「天喰環」と表示されていた。画面をスライドして電話に出ると、もしもし?と彼の声が聞こえてきた。

「た、まき…」
「…メール、見たけど……大丈夫?」
「メール…」

メールなんて送ったっけ、なんてぼけっと考えているとドアがノックされた。

「とりあえず…入って、いい…かな」
「…うん、ありがとう…まっていま…鍵開ける」
「合鍵あるから…大丈夫、だよ」

そう言って電話が切れると同時にガチャ、と鍵のあく音がして「お邪魔します……」と小さな声が聞こえてきて環が入ってきた。私のいるベッドまで来るとベッドの近くで腰を下ろして、痛みのせいで汗をかき濡れた髪が張り付いたおでこをそっと撫でた。起き上がろうとすると制止され、いいから寝ててと言われる。こういうとき、彼は少し強引だ。

「心配、した…来てほしいってメールきたから」
「あ、ごめ…お腹痛くて…」

環がメール画面を見せてくれたら、本当に私からのメールでおなかいたい、きて、とだけ書かれていた。お腹が痛すぎて環にメールを送ったのだろうが、無意識だったのか全然身に覚えがなかった。申し訳なさが募る。心配かけてごめんね、と言うと環がまたおでこを撫でてくれる。

「こういうときに頼れる…か、彼氏…になりたい…から」

だんだん声の小さくなって赤くなった顔を隠すように俯く環に愛しさが増す。私が笑うと環も顔を上げて笑ってくれた。

「…どうしたら…楽になる?」
「薬効いてきたからましにはなってるよ…でもまだちょっとお腹痛いからあったまれば…楽になる、かも」
「……わかった」

そう言った環は立ち上がり私のいる布団をめくって中に入ってきた。彼はときどきこうやって私が予想もしない大胆な行動をとる。彼の行動に少し驚いていると、ベッドに入った環は私を後ろから優しく抱きしめてお腹を大きな手で撫でてくれる。

「ちょっとは、あったかい?」
「…うん、ありがとう、環」
「俺にできることは少ないけど……できることならやるから、言ってほしい…」
「…うん」
「俺なんかじゃ頼りない…だろうけど…なまえに頼って、ほしい……」

そう言ってお腹を撫で続けてくれる彼に、なんだか涙が零れそうだった。彼は自信がなくていつもネガティブなことばかり言っているけど、本当は誰より強くて誰よりも優しい。私だけが知っている本当の彼。

「ねぇ、環。わがまま…聞いてくれる?」
「…俺にできることなら……」
「環にしかできないの」

俺にしか?って聞き返してくる環の方に寝返って、向き合う形になる。いきなり向かい合ったためか、環の視線が少し泳ぐ。環、と声をかけて頬に触れると環は察したのかそっと目を閉じて顔を近づける。ちゅ、と短くて小さな音がした。それだけじゃ物足りなくて離れた環の唇を追うように、私から唇を重ねる。

「ん、は…たまき」
「……なまえ…だめ」
「…なんで?」
「それ以上されると…我慢できなくなる…」

太ももに当たる硬い感触に気付いていた。
でも私は環が我慢してくれようとしていることも、こういうとき絶対に手を出そうとしないことも知っている。

「いまはできないけど、終わったらたくさんシよう?」

そう言ってもう一度軽くキスをすると環が生殺しだ……と小さく呟いたのが聞こえた。それにふふ、と笑って環にぎゅっと抱きつくと、環から伝わる暖かさでじわじわと眠気が襲ってきた。

「眠い?」
「ん、ちょっと…」
「俺のことはいいから、ゆっくり寝て」
「……たまき、起きても、いてね…」
「…うん、おやすみ」
「おやすみ……」

環がぎゅっと抱きしめてくれて私は目を閉じる。
この人の優しさと暖かさで痛みもだるさも軽くなるようだった。私の恋人は誰よりもかっこよくて頼れる私のヒーローでもあった。