お仕事疲れ × 天喰環



誰にでも、疲れて何もしたくないときあると思う。
私は今ちょうどそのときを迎えていた。

「つかれた…」

仕事から帰ってソファに倒れ込むともう何もしたくない気分になる。あぁ、でももうすぐ環くんが帰ってくるしご飯作らなきゃなぁ。今日は敵がたくさん出てて大変そうだったし、何か元気が出て個性に使えそうなものを…。
環くんが帰ってくる前にご飯作って、お風呂洗って、洗濯物取り込んで畳んで…あぁつかれたなぁ……
瞼が重く感じて少しだけ、少しだけ、とついうとうとしてしまう。





トントン、ジュージューという音が聞こえてきて意識がだんだんと浮上してくる。何の音…?と思っていると美味しそうな匂いがしてきて、ガバッと起き上がると羽織った覚えのないブランケットがぱさりと床に落ちる。

「へ、い、いま何時!?」
「あ…なまえ」

起き上がってバタバタと台所に向かうと環くんがエプロンをしてご飯を作っていた。

「あ、環くん、ご、ごめん寝ちゃってて…!」
「だ、大丈夫…あの、お風呂溜まってるから…先にどうぞ」
「で、でも…」
「いいから…ゆっくりお風呂入っておいで」

目を細めて優しく笑ってくれた環くんに頭が上がらない思いだった。ごめんなさい、入ってくるね、と言い残してバスルームへ向かう。バスルームのドアを開けると私が前に好きだと言った入浴剤が入れられていた。
何もせず、寝てしまっていたことに申し訳なくなって視界がじわり、と歪む。

涙を流すのもお門違いだと思ってシャワーを頭から浴びて頭と体を洗って、環くんが用意してくれた湯船にありがたく浸かる。
環くんの優しさが疲れ切った体に染み渡って、また泣きそうになる。私はこんなダメな女なのに、環くんは優しくて、かっこよくて、人気のヒーローで……他の女の子も放っておかないのに、私が隣にいてもいいのだろうか。環くんは私といて幸せなのかな。
ネガティブなことしか考えられず涙が我慢できなくなる。ぐすぐすとみっともなく鼻を鳴らしていると、磨りガラスのドアの向こうから環くんがノックをした。

「なまえ、ご飯……できたから、上がっておいで」
「あっ、いまでる…!」


慌ててバスルームから出てリビングへ向かうと環くんはもう少しゆっくり来てもよかったのに、と笑った。
テーブルに湯気のたったオムライスとスープが乗っていた。
2人揃って手を合わせて、いただきますと言って一口オムライスを頬張った。

「ど、どうかな…」
「……おいしい…」
「よかった…って、なまえ?なな、なんで、泣いてるんだ……もしかしてまずかった…!?」
「ちが、ちがう……ごめん、ごめんね環くん……」

急に泣き出した私に環くんがオロオロとするのがわかった。ごめん、ごめんなさい、ダメな女で、ごめんなさい、泣きながら自分がさっきまで考えていたことがボロボロと口から溢れていく。
向かい側に座っていた環くんが立ち上がって私の横に来たのがわかった。涙をボロボロと零し続ける私の頭をポンポンと環くんが撫でる。

「なまえは、頑張りすぎなんだよ……たまにはゆっくりしてもいいし、俺に頼りきりになってもいい……2人の家、なんだから、なまえが全部やろうとしなくていいんだよ」

俺にもちょっとは頼ってほしい……と環くんは苦笑した。

「い、いいの?私が環くんの隣にいても、いいの?」
「…なまえが隣にいるから、幸せなんだよ」
「……っ、ごめ、ありがと……」
「もう泣かないでくれ……なまえに泣かれたらどうしていいかわからない……」


涙を優しく拭ってくれた環くんが、そう言えばと口を開いた。


「ハグしたらストレスが三分の一になるってミリオが教えてくれたんだ…けど、い、嫌ならいいんだ…ただなまえが楽になれば……っ」

環くんの言葉を遮って私から環くんに思いっきり抱き着いたら、ちゃんと受け止めてくれて背中にぎゅっと力強くて暖かい腕が回る。

環くんが背中をぽんぽんと撫でてくれるのがほっとする。環くんの隣にいると私は世界一の幸せ者になれるみたい。
オムライス、冷めちゃったねって顔を合わせて笑い合うのも小さな幸せだと感じた。