爆豪の雨宿り



ぽつり、と地の色の一部が変わった。店前で掃除をしていた名前は箒を片手に空を見上げた。今日は一日天気が悪そうだ、とゴミを急いで箕に入れた。


雨が痛いほどに叩きつけ店の屋根が音を鳴らす。予約していた客からキャンセルの電話が入り、名前の経験上この様子では店に客も来ないだろう、と踏んだ。雷の轟が部屋を揺さぶり更に雨足が強くなる。店と言っても住居兼用のため名前は部屋は濡れていないかと心配になって階段を上がった。なんせ築年数が古い借家のため時々襤褸が出るのだ。二階を念入りに探したが特に雨漏りはしておらず、胸を撫で下ろし来た道を戻ると一人の少年がいた。


「わ、勝己くん!びしょ濡れじゃない」
「さっさとタオル貸せや」
少年、爆豪は雨に濡れた状態で入口に立っていた。予報では小雨だったため傘を持っていないのも頷けるがまるで海から上がった人のようだ。いつ入って来たのだろう、寒い格好で待たせたか、髪が伸びてる訳でもなさそう、と色々思案することはあったが急いでタオルと爆豪でも着れそうなシャツを用意し二階のソファに案内した。


「あったかい飲み物いる?」
「いらねェ」
「じゃあストーブつける?」
「…いらねェ」
「毛布持ってこようか」
「うるせェんだよ!ババア!」


爆豪の変わらない元気な姿に名前はそっと微笑む。店を開いた当初から爆豪の母光己が通うようになり、容姿は母似のしかし性格は尖りすぎている息子を一度連れてきた。
最初は母に怒号を飛ばす様子を見て呆気にとられていた名前だったが、髪を切り始めると爆豪は大人しい。補足するとこちらが何も言わなければ怒ることは無いし、反抗期の可愛い少年だ。というのが爆豪の第一印象であった。それからというもの爆豪は一人で通ってくれるようになったのである。光己に言われてなのか、自らの意思なのかは不確かだ。


美容師という仕事をしていると自然と観察力が身につく。爆豪が焦燥に駆られている様子を名前は感じていた。それは悔しそうに憎そうに苦しそうに必死に取り繕う姿が痛々しい。何に対してなのか聞いても爆豪は素直に答えない。それが分かっているから名前は爆豪の隣に黙って座るしかないのだ。


爆豪の様子を伺いつつ名前は徐に洗面所へ向かうと無駄を省いたデザインのドライヤーを持って戻ってきた。最新のドライヤーなの、と頬を少し上気させながら爆豪にソファの下に座るよう言った。だが人の言う事を簡単に聞くように育っていない爆豪は自然に乾く、の一点張りだ。


「乾かすかどうかジャンケンで決めよう。勝己くん私に勝ったことないよね」


誰がやるか、と否定される前に名前が煽ると思惑通りに爆豪が負け、出した手を震わせながらもソファの下に胡座をかいた。名前にとってはこんな態度も可愛く見え乾かしつつ撫でつつするのであった。爆豪にバレて怒鳴られたのは少し先の話。