三年間慣れ親しんだ中等部の校舎と別れを告げる頃、女の子たちはゆっくりと、しかし確実に色づいていく。周りの女の子たちより少し勝ち気で頑固であっただけの私には生まれてこのかた、一人の彼氏もいなかった。
「アーン?それがどうした」
もうじき初雪の降り始める日の放課後、既に部活の引退式を終えた跡部は眉を顰めて顔を上げた。クラス単位で纏める文集の製本に、私が余裕をこいて締切まで作業を引き延ばした結果がこれである。
あろうことかあの跡部様の手を煩わせたことが学年の女子に知られるかもしれないと知っていれば、私だってもっと早く作業を終わらせていただろうに。
怪訝そうな顔をしながらも手を止めない彼は案外、面倒見が良いらしい。あの高飛車な態度との、いわゆるギャップというものだろう。一体全体、彼はこういう憎めないところがあるから人の好意を集めるのだ。
「それで?」
私の話など軽く飛ばしたかと思われた跡部は、小さく眉間に皺をよせて手を動かしたまま話の続きを促した。
「それでっていうか…うーん、でも冷静に考えて確かにこの性格のままじゃ彼氏を作るのは難しいだろうね」
「ほう、自己分析が出来ているならそこを直せばいいじゃねーの」
「いやそれは無理かな」
間髪入れずに返して、私はやはり自分のこういう性格が厄介だと思う。それでもそれを変えてしまうのはなんだか違う気がして、私はあまり可愛くない返事をしてしまうのだ。
「男のために自分を曲げるのは違うでしょ」
「ハッ、正論だな。俺様も恋愛で自分を曲げるつもりはねーな」
「なに?じゃあ跡部が私と付き合ってくれるとでも言うわけ?」
半分冗談、半分本気でそう言えば跡部ははたと紙を整えていた手を止めた。
「なるほど?確かにその気の強さじゃ彼女にするには手強いかもしれねえな」
軽く流すように彼が言うので、私の中で何かあったかもしれない可能性の一つが穏やかに消えていくような心地がするのだ。
それでもあの跡部景吾に手強い、などと言われたのだから少しは誇るべきだろうか。
嬉しいような、嬉しくないような、複雑な顔をして跡部を睨めば、早く手を動かせと急かされる。
少し気が強いことだって男の子ならばきっとそれは長所に変わるなんて、都合の悪い世界である。そんなことはあまりにも割に合わないではないか。
諦めたように跡部から手元に目線を落とせば、彼が喉の奥で優しく笑うような小さな声が聞こえた。
「まあ俺はそこが好きなんだけどな」