足元の砂を蹴った。水を吸って重くなった砂は小さく跳ねただけで、すぐに波打ち際に落ちてしまった。「ねえ五条、水かけたら怒る?」「ブチ殺す」ちえっ、と舌打ちをすれば間髪入れずに水しぶきが飛んできた。「何事!?」「水かけた」「くそヤロウ」真似をして五条に水をかけ返せば、五条は面白そうに笑った。波が引くごとに足元の砂が奪い取られていく。自分の周りの全てが、自分だけを置き去りにしていくような感覚。バシャリ、と大きな音がして五条の顔が濡れた。吃驚したような顔をした五条の、前髪からぽたぽたと水が落ちた。「ア、ごめん。手滑っちゃったわ」バシャリ、と大きな音がして瀬生の顔面が濡れた。新しい友達を見つけたような顔をした瀬生の、前髪からぽたぽたと水が落ちた。「ア、ごめん。手が滑ったわ」バシャリ、と大きな音がしてどちらからか分からない水しぶきが、渇いた砂の上を濡らした。濡れた頬はすぐさま熱を奪って冷たくなっていく。足元に欠けた貝殻が落ちていた。乾いた海水の匂いが鼻孔を擽る。雨上がりの匂いが好きだ。同情ではなく感傷ではなく。そっと器用に冷たさの後ろに姿を隠した、生きていた者の悪足掻きのような。そういう途方もない弱さと強さに、雨上がりの匂いを嗅ぐたび、思い至るのである。再び五条が水をかけるので、急かされたみたいに同じように水をかけてやる。「馬鹿だね、お前は」そう言った瀬生に五条が何か怒り出すのを、瀬生は笑いながら眺めていた。夏も遂に死に絶えた、九月の始まりの正午である。