不二が隣にいることが、全部どうでもよくなってしまうくらいの暑さだった。考えていたことが全部蝉の声でうやむやになって、三歩先のアスファルトの上で揺れる蜃気楼に、君も大変だな、なんて素っ頓狂なことを考える。昼下がりの閑散とした住宅街、どこまでも続きそうな国道の上で網膜には、毒かとさえ思わせる青空が広がっている。前にも後ろにも、この広い通学路には二人しかいない。思わず戻した視線の先で不二と目が合ったが最後だ。暑さのせいか、今日の不二はいつもより少し饒舌で、茹だれる瀬生を横目に話を続ける。蝉の声が夏にしか流れない交響曲のように天高く響いていく。空より、その手前の不二を見て瀬生は眩しそうに目を細めた。こんな天気のいい日はどこか遠くに行きたくなる。「逃避行、してみたいね」脳と直結した口が馬鹿正直に口にするのを、不二は少しだけ驚いた顔をして、そうして喉の奥で軽く笑って言った。「奇遇だね。ボクもちょうど、どこかに行きたかったんだ」声と共に繋がれた不二の手のひらは少しだけ汗ばんでいて、彼も同じ体温を思っているのだと、そこで漸く気が付くのだ。ろくに目的地も定まらないまま、手を繋いでどこか遠い場所へ向かっている。「暑いね」七月の空を眩しそうに見上げる不二が、それでも繋いだ手を離さないのは夏のせいにしておこう。夏の日に私たちは、責任転嫁がお得意なのである。
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