放課後クライシス



「トウヤったらいつになったらサクラに告白するのよ」

教室の扉を開けようと伸ばした手を瞬時に引っ込め、ひらりと身を隠す。と、いってもしゃがんだだけだが。いや、でも、今の身のこなしはまるでレパルダスのように静かで素早かったよ私すごい。
そんなことを考えて気をそらそうとしているが、鼓動は早くなったままである。
何故鼓動が早くなったのかとか、そもそも何故私が突然教室に入るのをやめて身を隠したのかといえば、一言で言うとそれは冒頭のセリフが聞こえてきたからだ。私が教室に入ろうとしたら、中では恋の話に花を咲かせている真っ最中だった。満開だね!
別にクラスメートが恋ばなしていようと、忘れ物を取りにきた私からすれば関係ないし、パパッと用を済ませ出て行けばいい話なのだ。しかし、それはその話の内容に関係のない人物だからこそできるのである。つまり、そう、私が言いたいのは……。

「トウコ!そんな大きい声で言ってサクラさんに聞こえてたらどうするんだよ!」
「サクラならもう帰ってたから大丈夫よ」

話題にのぼっているそのサクラという人物は、実は忘れ物を取りに教室に戻ってきており、更にはばっちり話を聞いてしまっているのである。
回りくどい言い方をしたが、そう、つまり私がサクラなのだ。困った。

恐らく中で話しているのは、トウコとその幼馴染のトウヤくんであろう。他の人の声は聞こえないから教室にいるのはこの二人だけだと思われる。
さて、現状整理したのはいいが、ここからどうしよう。トウコ達が帰るまでどこか別の場所にいようか。はたまた諦めて帰ろうか。いっそ、今来ました話の内容なんて聞いてないですよというそぶりで中に入ろうか。
でもトウコ達がいつ帰るのかは私には分からない。それまで待っておくなんて面倒くさいことはできればしたくない早く帰りたい。ので却下。
では諦めて帰るという案だが、いったん家に帰りかけていたのをわざわざ戻ってまで来たのだから、それなりに大事なものを取りに来たわけで。いやまぁ、大事なものといっても明日の一限目に提出の課題なのだが。明日、朝早く来て課題を終わらせるという手もあるが、朝はギリギリまでゆっくり寝たい派なのだ私は。ということで却下。
となると何でもない顔で突撃する、という案しか残ってないわけだが、果たして上手に演技できるだろうか。
……いや、考えていても忘れ物が私の手元に飛んでくるわけでもないし、ここは意を決して入るしかない。私は今から女優だ。いや、もともと私は女優なのだ。というか女はみんな演技派女優なのだ。うん、これで自然に入れる。なんでもバッチこいや!

スクッと立ち上がり、扉に手をかける。そして何食わぬ顔で扉を開け、
「まぁでも、さっさとサクラに好きって言いな、さ……」
「「……」」

時が、止まった。

ここまでタイミング悪く、いやむしろある意味タイミング良く扉を開けるなんてそんなこと現実に起こり得るのか。事実は小説よりも奇なりとは言うが本当にそうである。人が想像できるものは実現可能という意見もあるしな。まあ私はこの展開想像もしていなかったけれど。
トウコは気まずそうな顔でこちらとトウヤくんを交互に見るし、トウヤくんはトウヤくんで顔を真っ青にさせて硬直しているし、私といえば扉を開けた時の状態のまま固まっている。なんだこのカオスは。
誰もこのカオスから抜け出す術を持っていない。いや、方法は無きにしも非ず。私がやはり何事もなかったかのように忘れ物を取り、スッと去ればいいのだ。
だがこれは相当な勇気が必要である。相手の想いを間接的にではあるが聞き、それをなかったことにして立ち去るのだ。冷たい印象を与えるだろう。ではどうすればいいのだろうか。
いや、待てよ。なにも何事もなかったかのように黙って去らなくても、ここへ来た旨を伝えた上で、その用事を果たして帰ればいいではないか。少しの気まずさは残るものの、黙って去るよりはよい印象を与えるだろう。うん、そうだそうしよう。

「あの、私忘れ物を取りに、」
「あのさ、サクラさん!好きだよ!よかったら僕と付き合ってくれませんか」

えっ?!……えっ?!まさかのここで本人からの告白?それも想像してなかったよ。聞かれたからにはもう言ってしまえっていうふっきり方をしたんだねトウヤくん!え、どうしよう私のこれから行う予定が狂ってしまった、パニック!パニック!!

「サクラ、返事はどうするの?」

トウコに話しかけられパニックを起こしていた脳内をいったん落ちつかせる。そうだ、返事。返事を返さなければ。

「えっと……」

落ちつかせるとは言っても、脳内処理は追いつかないでいる。だから返事、返事をしなければならなくて。いや、伝えたい言葉は思い浮かんでいるのだがどうにも言葉にならない。喉でつっかえてしまうのだ。だってこんな緊張すること普段ないから。チャンピオンに挑むときくらいに心臓がバクバクだよ。まだ挑んだことないけどさ。

「別に嫌ならいいんだ!正直に言ってくれていいんだよ」

あっ、違う違う。言いたいことは否定の言葉じゃなくて。
トウコがトウヤくんにさっさと告白しろって言ってたのはさ、多分私の想いを知ってたからだと思うんだ。だから、そう、言いたいのは……。

「ト、トウヤくん!」
「は、はい!」
「あの、わ、私でよければ、是非……よ、よろしくお願いします!」

返事と同時に頭を下げる。言った、言ったぞ私。よく言えた!!これならチャンピオンも余裕で挑めそう。まだジムバッジコンプしてないけどな。気持ちの話だよ気持ちの。
ところで返事をしたはいいが、何のアクションもない。あれ、この返事ってダメだったの?バッドエンドルート切り開いちゃったの?え?あれ、私告白された、よね?あれ、もしかしてトウヤくんと付き合いたい願望が強すぎて幻覚見ちゃったのかな。それだと私とても痛い子。何それ恥ずかしい。

とりあえず恐る恐る顔をあげてトウヤくんを見やる。トウヤくんはポカンとした顔で私を見ている。あ、本当に私幻覚見たんだ。トウヤくんは別に告白してないんじゃね?え、そんなことある?ここで先程の事実は小説よりも奇なり発動させちゃう?それとももしかして私はスリーパーの催眠にかかってる?脈絡もなく?

私の顔が青ざめていく一方で、トウヤくんの顔は熱を帯び赤くなっていく。
こいつ突然告白の返事みたいなことしてきたんだけどみたいな感じで笑いをこらえているのだろうか。何それ辛い。

「あ、あの、」
「すごく嬉しい!ありがとう、これからよろしくね!」

とりあえず謝っとこうと言葉を紡ぎはじめた私に、ガバァッと抱きついてきたトウヤくん。
包まれた体が温かい。青ざめていた頬は急激に赤く染まり、熱い。突然のハグに驚いたり照れたりでもうキャパオーバー。
だ、抱きしめられてる……!

「トッ、トウヤくん……!」
「もう離さないからね!」

ギュウギュウとしめつけるの技を繰り出すトウヤくん。
ずっと想っていた相手にハグされるとさ、まるでこうお日様につつまれてるようだよ。いや、トウヤくんはむしろ月の方が似合うんだけどそういうことじゃなくて、だから……。えっと……。

「ちょ、トウヤ!サクラ気絶してる!!」
「え、あぁ!!」

キャパオーバーで気絶した私は、トウヤくんにおぶわれ帰る途中その背中で目を覚まし、またパニックを起こすのであった。


ーーー
三万打企画のフリリク作品

2014.05.29



 

backtop