言葉の責任



怪訝に見る者、品定めをする者、畏怖の念を送ってくる者、私に向けられる視線は様々だが好意的なものはない。仕方のないことだとは思う。私だって急に空から女の子降ってきたら、神か天女かはたまた悪魔かと奇異の視線を送っていただろう。
とはいえ、そんな目線を寄越される当人としては勿論いい気分ではない。そもそもこちらも落ちたくて落ちたわけではないし、これから見知らぬ土地で一人ぼっちで過ごすことに対する不安に押しつぶされそうだ。いたいけな少女のハートは繊細でガラスのようにもろいのである。もう粉々。
そんな時に好意的に話しかけてくれる人がいたら、気を許してしまうのは当然のことではないか。

「キテレツな身なりですね。アナタおもしろいです!ジブンはウォロ 、イチョウ商会の者です。アナタのウワサはきいていますよ、空から落ちてきたとか……!ジブンとしては気になって気になって。」

笑顔で話しかけてくるウォロという人物。村の人たちは遠巻きに私のことを見ているが、この人は笑顔で話しかけてくれた。好奇心からだろうが、それでも話し方や視線から不快な感じはしない。
あと何よりイケメンである。そう、ここまで村の人の視線とウォロさんを対比するなどいろいろと述べてきたが、結局のところイケメンというだけでもう好感触。何だこの国宝級イケメン。キリッとした目に、スッとした鼻筋、片目が前髪で隠れているのもミステリアスでかっこいい。うっかり空から落ちてきてよかった。こんなイケメンに好意的に話しかけられるなんて役得!イケメンに興味持ってもらえるならその他の奇異の視線は全く気にならないよ。イケメンはどの時代でもその存在が人に幸福をもたらす。かの有名な平安時代の光源氏だってイケメンすぎて一般人は会えることに涙してたからね。イケメンすごいな。元気出たわ感謝。

「ありがとうございます」
「ん?何に対してのお礼ですか?」

おっと、イケメンへの感謝の気持ちをうっかり口からポロリしてしまったようだ。イケメンを拝ませていただきありがとうございます存在してくれてありがとうございます、という推しへの感謝だが、初対面でそれはひかれる。せっかく私に好意的に話しかけてくれたのに、そんなことを伝えれば態度は一転、ゴミを見るような目で蔑まれることだろう。イケメンの罵倒も需要はありそうだが。今の私は蔑まれ耐性ゼロなので優しくしてほしい。ドロドロに甘やかしてほしい。

「私のようなよそ者に、好意的に話してくださったことが嬉しくて」
「なんだ、そんなことですか!アナタは実に興味深いですからね!」
「んっふ、ゴホン」

イケメンに興味深いと言われる人生が歩めて良かった。もしかして私がここに落ちてきたのってこのため?イケメンに幸せにしてもらうため?はあ〜、それならうっかり空から落ちちゃっても、時代か何かを超えちゃっても仕方ないわ。イケメンのためならこの身いつでも捧げます。ちょろい。

「私、うっかり落ちてきちゃって良かったです。幸せ者だなあ。これから末永くよろしくお願いしますウォロさん」
「よくわかりませんが、ジブンとしてもご贔屓にしてもらえる方が増えるのは喜ばしいことですからね!こちらこそ末永くよろしくお願いしますよ」

言質はとった。あとはその身を私のものにすればいいだけだな。多分ウォロさんも私のこと好意的にみてるからホップジャンプでいける。図々しいな私。こんなイケメンゲットするの難易度高すぎだから。

しかしこのあと、さまざまな場所でのウォロエンカウント率の高さや、秘技 背面どりをされることから、ウォロは私と添い遂げる気だということを確信する私であった。


(これはこれはサクラさん!奇遇ですね!)
(や、やっぱり……)
(おや、どうされました?)
(ウォロさん、あなたの気持ちはわかりました)
(……と言いますと?)
(結婚しましょう)
(……今なんと?)
(あっ、ごめんなさい、もっとロマンチックな場所がよかったですよね。海行きますか?)
(いえ、そうではなく……)
(あっ、式の日取りや両家顔合わせについてですか?私の保護者はシマボシ隊長になるんですけど、ウォロさんはギンナンさんですかね?)
(いえ、そういうことでもなく。ジブンとサクラさん、付き合ってましたっけ?)
(いえ。けど、ウォロさんも私も好きあってはいますよね?)
(え?)
(え?)
(何かとんでもない勘違いをされてるようで)
(……けど末永くお願いしますという言質はもうとってあります。責任とってくださいね)
(いやいやいや、え?いやいやいや。あっ、ジブンこのあと行くところがあるんでした!それではまた!)
(あ、どこへ、逃げ足はやっ!)

2023.12.19



 

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