Not DV!

非戦闘員であった筈の私が何故かボスっていう大層な役職について、ボロボロになるまで修行してるなんてどういうこと。私うら若き乙女なんだけど。こんなに傷が増えて、お嫁にいけなくなったらどうしてくれる。

リボーンくんにみっちり鍛えられ、生傷の絶えない痛々しい体になってしまった。何これDV?ツナも行なったという崖のぼりを現在進行形で私も行っている。しかしまだ1メートルしかのぼれない。そりゃそうだよ。ロッククライムの経験があるわけじゃないんだからそう簡単に出来るわけない。ツナは死ぬ気弾に撃たれてのぼりきったらしいが、私はそんなことはしない。下着姿でのぼるとか有り得ない。人気のないところと言っても、いつ誰が見てるかわからないんだから。それに下着姿でロッククライムって崖なめすぎだろ。布面積少なすぎて何も守れないよ。だから自力でのぼるしかないよ辛いね。
それに修行という名のDVを受け続けてから何時間が経過したかはっきりとは分からないが、辺りは暗い。恐らく19時から20時ってところだろう。そろそろ血まみれの手も感覚が無くなってきた。
おかしいな。私は医者を目指してるのに何でこんなバイオレンスな状況になってしまったのだろう。それを言えばそもそも何で私がこのリボーンの世界に転生したのだろう。敢えて漫画の世界じゃなくても良かったのに。そういうのはトリップを夢見る少年少女にやらせてあげてくれ。それか同じトリップするならもっと日常系漫画とか平和な世界が良かった。料理系でもいいよ。美味しいものたくさん食べたい。ただしト◯コ、テメーはダメだ。命の危機にさらされず美味しいものを食べさせてくれ。
そんなことを考えながらもひたすらにのぼり続ける。そして何度目か分からない失敗。つまり落下。たった1メートルの高さとはいえ、積み重ねることでダメージは大きい。疲れからうまく着地も出来ず足を捻った。もう嫌だなあ。こんなに辛いんだったら、いっそ打ち所が悪かったほうがましかな。
……おっといけない。医者を目指す者なのに命を粗末に考えるなんて。
ああでも、どうせボスになったら医者の夢は叶わないんだ。それならここで息絶えるのも有りかもしれない。そうね。今回の戦いが終わっても、これから先もどうせ血腥い戦いが繰り返される。それに駆り出される辛さを考えたら私の今考えている選択肢は正解じゃないかな。
捻った足を擦りながら考える。すると頭を思いきり蹴られた。くっそ痛い。せっかく蓄えた知識すっ飛んでバカになったらどうしてくれる。おや、なんだかんだ考えながらも私やっぱり医者諦めてないじゃん。そんな私が好き。

「何考えてんだ」

蹴って一言目がそれ?まずは頭蹴ったことについて陳謝してほしい。ボロボロの人間に蹴りかますたぁ、いい度胸だなこのやろう。

「お前、医者を目指してんのに何死のうとしてんだ」

まだ死のうとしてませんけど。どちらかというと殺されそうですけど。リボーンくんに。DV怖いね!あとやっぱり医者の夢諦めきれてないことも分かったのでその問題解決しました。
……よくよく考えたら私言葉にしてないのに。何故分かった。もしかして私、悟られ……?それは勘弁してよ、心の中ガラス張りって恥ずかしすぎる。お腹痛い時なんかこの世を破滅させるのではないかってレベルの呪詛念じてるんだけど、もしかしてそれみんなに筒抜けだった?

「オレは読心術を修得してるからな」

読唇術?あれって読んで字のごとく、唇の動きを読むものでしょ。口動かさなきゃ分からないよね。やっぱり私は悟られ説が濃厚。いやいや勘弁してくれ。

「唇のほうじゃねぇ。心のほうだ」

読心術?あれ、リボーンくんってそんな設定だったっけ?心の中が読めるってずるすぎない?それはそれとして悟られじゃなかったのはよかった、本当によかった。誰かれ構わず心の中吐露されてたら発狂しちゃう。勿論特定の相手に勝手に心読まれるのもふざけんなとは思うが。

「ずるくねぇぞ。それにお前の心の中はところどころ読めねぇんだ。今も、ずるい云々の前の言葉が読めなかったしな」

……それは設定のところ、だろうか。はいはいはい、わかりましたよ私。なるほど。原作知識、転生云々のところは読み取れないんですね。なんて都合のいい展開なの。これで大事な情報は守られる。そんなものよりマフィアに関わらない補整のほうが欲しかったけどね。

「一つ聞いておくが、お前は何を隠してるんだ」

いや別に何も。仮に隠してたとしても聞かれて答えるわけないでしょ。なんて。確かに転生云々のことは言ってないけど、言ったって信じてもらえないだろうし、気が触れたと思われて精神科に連れていかれたらたまったもんじゃない。だから言わないだけ。隠してるってほどでもない。どうせ奈々さん以外とはそんな関わらないつもりだし。まぁツナはそれなりに可愛がってるけど。暫く会ってなかったから距離があるし、ツナ自体は私のことが嫌なのかもしれない。ちょっと切ないね。別にいいけどさ。私から距離置いたんだし。医者になれるんなら後悔なんてしないよ。……だから今のままだとなれないんだって。

「お前、ツナと似てないな」

そうだろうね。この世界では親は一緒で姉弟って関係だけど、中身は前世の私が色濃く残ってるまま。似ているわけがない。全くの他人なんだから。一緒に過ごした期間も短いんだよね。父家光ほどじゃないけどな。あの人こそ接しにくいよな。マフィア云々抜きにしても。

「まぁ、頑なにマフィアのボスを嫌がるところはそっくりだけどな」

当たり前だ。平凡な生活をしてきた人間からしたら誰だって嫌だよマフィアのボスなんて。……でも、もしかして今のは一応フォローしてくれたのだろうか。少しはリボーンくんもいいやつなのかもしれない。ほんと、爪の先ほどくらいね。正直、ツナとそっくりだねと言われても、そんなわけないだろうと笑い飛ばすが。まあしかし、嬉しくなくはない。

「嫌でも何でもやってもらうけどな。よし、さっさと修行に戻るぞ」

前言撤回。ただの悪魔だこの子。


(ほら、さっさとのぼれ)
((もうめんどくさいから死ぬ気弾撃ってもらおうかな))
(今は撃たねぇぞ)
(何で?(夜だし、下着姿になったら風邪ひくとか危ないとか考えてくれてるのかな?))
(今撃ったらお前、死ぬ気で逃げ出すからな)
(……あぁ、そうですね)



2013.01.05

 

 
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