現実なんてこんなもん

トリップは憧れ。でも仮に本当にトリップできても好きキャラとコンタクトなんて都合よすぎ。しかもカップルになってハッピーエンドなんて図々しい。夢も希望もない生々しい考え。ひねくれてる?そりゃひねくれたくもなるわ。実際にそんな目にあったんだから。

コンビニに入ったら眩い光に包まれました。思わず目を閉じました。暫くして光が消えたので恐る恐る目を開けました。すると見知らぬ公園に立ってました。んなバカな。不安になってブランコで遊んでる女の子に現在地を聞くと並盛だって。こんなベタにトリップできるとは。

うかれたよね。トリップという事実にうかれ踊ったよね。きっとリボキャラの誰かが公園に来てそこから物語が始まるとかワクワクしちゃったよね。しかし待てども待てどもリボキャラは来ない。それどころか公園にいた女の子も帰って1人ぼっちな状況。置いてくなよお嬢ちゃん……。これはもしかして公園にお泊りコース?おいおい困るよ、まじ勘弁。お願いだからはよ来いや。この際主要メンバーじゃなくてもいいから誰か家に呼んでくれそうな人来て。

そんな願いも叶わず、誰も来ぬまま夜をむかえた。まさかここがマイホームになるとは。お母さん達心配してるんだろうな。ぐすん。ぐううう。……なんだこのお腹は空気も読めぬのか。しょうがない。コンビニ行こうとしてたからお金はあるし弁当買いにコンビニ行くか。ちなみに逆を言えばお金と携帯しかない。さらに言えばお金もホテルに泊まれるほどとかはない。六千円ちょっとである。ATMのカードはあるんだけどこっちの世界で引き落とせるのかな。こっちに戸籍ないから無理かな。あ、もしかしてきっかけになったのコンビニなんだから、コンビニに行けば帰れるのでは。

ということでコンビニに行きました。行くまでに断末魔のような叫び声がしたりボロボロというかボコボコのお兄さんたちがいたり迷子になったりしたけど30分ほどで無事つきました。並盛治安悪くね?
しかしコンビニから家へは帰れませんでした。とりあえず弁当買おう。

弁当を選んで時間を軽くつぶすため漫画を立ち読みしていたらレジのほうが騒がしい。店員が悲鳴をあげている。やだ強盗?怖いし私には何もできないから悪いけど棚の影に隠れた。やっぱ並盛治安悪くね?
それからすぐ店から出て行く音が聞こえたから一応周りを警戒しながら立ち読み再会。あ、警察に通報すればよかったかな。でも私の携帯繋がるのか?ためしにお母さんにメールを送ってみたがエラー。繋がらないのかよ。

流石に何時間もコンビニに居るわけにはいかないので弁当を買って出た。レジの台に五百円玉くらいの穴があいてたけどきっと強盗がやったんだな。影に隠れてて良かった。そういえば警察来なかったな。

コンビニから出てさっきの公園に戻る。簡単に言ったけど道を覚えてなかったから野生の勘で頑張った。1時間近くかかったからね。行きはよいよい、帰りはオイオイだよ。違う。
他の場所に行ってもいいが、初めにいた場所なら何か手がかりとかあるかもしれないから一人ぼっちの今、出来るだけこの場所から離れたくない。誰かが拾ってくれたら別だが。まだ誰にも出会えていない。こんな治安悪い所、しかも夜に女一人で私は大丈夫だろうか。不安。
とりあえず弁当を食べて寝場所確保。ベンチに横になりこれからの事を考えて泣きそうになった。何で私がトリップしたんだろう。ていうかトリップしたのにキャラに会えないってどうなの。日頃の行いはそれなりに良かったぞ。ボランティアには積極的に参加してたし、道に迷ったおばあちゃんを案内したり、電車で赤ちゃん泣いて周りの視線を気にするお母さんのために、赤ちゃんかわいいー!いないないばあ!ってしながら舌打ちしたおっさんの足踏んだこともある。私結構いいやつだな。だというのにこの仕打ち。こんなことならもう二度と参加しないからな地域清掃ボランティア。最後にもらえるお菓子がちょっと私の心を傾けるけど。道徳心からではないことがよくわかる。

そんなことを考えていると突然声をかけられた。こ、この声はまさか!起き上がって声がした方を見るとつり目の学ランを羽織った少年、もとい雲雀恭弥が立っていた。
やっと、やっとキャラに会えたよ。良かった。そう安心したのも束の間。奴の武器であるトンファーが私の座ってるベンチに投げられた。は?私まだ何もしてないんだけど。
「僕の並盛で家出?家出するのは勝手だけど並盛の公園で寝泊まりしないでくれる。治安が悪くなる」
この並盛オタクが。そうだった、こいつは並盛、並中ラブ!な男だった。というか私家出じゃない。帰れるもんなら帰っとるわ。それに治安既に悪いだろ。家出少女の比じゃない悪さよ。そもそもか弱い女の子に突然トンファー投げてビビらすこいつの存在が治安を悪くしてる。
流石にそんなこと堂々と言う勇気はないのでとりあえず黙っていると、雲雀は目に見えて不機嫌になってきた。仕方ないので私がここにいる理由を説明した。コンビニに行こうとしたら突然光に包まれて気付いたらここにいた、だから帰れない、と。そしたらさ、あいつ、
「つくならもっとまともな嘘をついたら」
だってよ。腹立つな。いや私が雲雀の立場だったら同じように思っただろうけど。でもやっぱ言われるのは腹立つな。本当は言い返したいところだが私はか弱い乙女だから雲雀にかなう術はない。下手に雲雀を怒らせておだぶつにはなりたくないから我慢我慢。私えらい。理性が勝ったことを感謝するんだな雲雀恭弥。感謝するのは私自身である。天地がひっくり返っても絶対勝てないからね。
「さっさと帰らないなら今ここで咬み殺してしまおうか」
なんて物騒な言葉が聞こえたから帰れないんですって!と半ばキレながらこたえる。言ってから後悔。はい私しんだー。目を瞑ってふりかかってくるであろう痛みと衝撃を待っていた。あとお母さんとお父さんに産んで育ててくれてありがとうと念を送った。なんてできた子なの。しかしふりかかってきたのは
「さっきの話本当みたいだね」
という意外な言葉。どういう心境の変化だ。突然心読めるようになったの?
でもまあ、信じてくれたのなら何かしら助けてくれるだろうと淡い期待を抱く。そんな自分の甘さに嘲笑。だって雲雀は
「なら帰れるよう精々頑張って。ふわあ」
と言い残して去ったのだから。おいお前最後にあくびしただろ。人ごとだと思って。やなやつやなやつやなやつ!!別にいいけどなんか腹立つ。そう思う時点で別にいいわけない。ていうか並盛ラブなのにいいの?この公園の風紀乱れるの放置?治安悪いのお前のせいじゃねぇの?治安回復のためにもちょいと助けておくんなまし。

結局助けなんぞなく、私は公園で一夜を明かした。あれ、私ヒロインなんじゃないの??異世界トリップしたらホームレスでした。そんなラノベは嫌だ。

これが昨日の出来事。ひねくれた理由がこれでもかってほどつまっている。トリップできた。キャラにも会えた。でも住む場所もないしキャラとのふれあいはものの5分。帰る事もできない私はこれからいったいどうすればいいんだろう。とりあえず雲雀恭弥あいつは許さん。


―――
治安悪いのは全部雲雀さんがらみ。

2011.09.12
 

 
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