「なに、変な顔して。どうかしたの」
「え?へんなかおだった?」
「めっちゃ」
「え〜そんなことないのに。普通だよ普通」
「なに普段からブスってこと?」
「え、めっちゃ辛辣だよ」
わたしがどうしたって言いたいよ。呆れ顔でわたしを見下ろす彩奈ちゃんに為す術もなく、アイスコーヒーに突き刺さるストローを噛む。彩奈ちゃんは、盾付きながらも、いつだってわたしの話しを最後まで聞いてくれる、数少ないわたしのお友達。
「そういう顔のとき、大抵いいことない」
「そーかな?」
「ないよ。わたしの知ってる範囲で言うとね」
「んん彩奈ちゃんの知ってる範囲なら、間違いないかも」
「・・・詳しくは聞かないけど。早く解決しないとだめだよ?」
彩奈ちゃんは優しい。毒を吐きながらも、その目はわたしをちゃんと労わっているから。ありがとうと思いながら笑い返すと、笑ってる場合かよっていう目で睨まれちゃうのも、すっかり慣れたので好き。
「うん。がんばる」
「・・・話しは聞いてあげるから」
梶くんがお嫁さんにしたのも納得できる。彩奈ちゃんの可愛すぎるセリフに、今日初めて本当に笑えた気がした。
***
でぃーがね、好きなの。
「・・・は、」
目が覚めた。小さな口から紡がれた告白に、心がときめいた瞬間を思い出す。安易な言葉すぎて味気ないが、その時俺はほんとうに世界で1番幸せだと思った。
「名前?」
「んー・・・」
「寝てんのかい、」
スヤスヤと眠る名前の寝顔に思わず笑ってしまう。クーラーの効いたこの部屋は、外の世界の全ての音を遮断して、俺たちだけにしてくれる。やけに耳に流れ込む彼女の寝息は、やっぱり、幸せといえばそれでしかなくて。
「、相変わらずだなあ」
白すぎる肌は、俺を欲情させたり不安にさせたりする。どうにもこうにも心を落ち着かせてはくれないのだ、彼女という存在は。
思い出すのは、このまえ、お酒くさい名前が連絡もなしに俺の家のドアを叩いたこと。扉の先にいた名前は、お酒に呑まれているというより、悲しみに暮れているように見えた。焦点の定まらない瞳を見兼ねて、俺はひとつ返事で部屋に引き入れたのだ。何を言うわけでもなく、泣くわけでもなく、ぐっと唇を噛んで俺の手を握る名前の姿に、なんとなく一人の影が浮かんだり消えたり。
「さ、くん」
「、!」
「・・、」
「(なんなんだ)」
彼女の心を左右するもの。そんなの櫻井さん以外にあるのだろうか。あんなに楽しかった祭のひとときは随分昔のことに思える。コロコロ変わる名前の表情が好きだ。可愛くて優しくて意地悪で、子どものくせに大人の雰囲気をチラつかせて、そんな掴めない名前を俺は傍で眺めて、笑うだけ。
"でぃーがね、好きなの"
夏の灼けるような暑さも、クーラーはゼロにしてくれる。そこに熱など存在しなかったように、つめたい風を送って、細い名前の指先を冷やしてしまう。そして寒がりな彼女は、寒いよと言いながら、俺にあたためてと強請る。くすぐったくて、可愛くて、単純な俺は一瞬で満たされるのだ。