絶対、など言うべきでない。確信があったとしても、そんな言葉はインパクトしか人に与えなくて、結局事実ではないから。

「あれ、起きてたの?」
「まあ」
「ごめん先に寝てました・・・」

たっつんの髭を見ながら、ああまたズボラな人だと感じる。剃る時間がなかったのだろうかとか、連日忙しいから仕方がないとか、そんなことを思いながらも結局彼はズボラな人間だと思ってしまう。

「別にそのまま寝てて良かったけど」
「その格好で寒くないですか」
「寒いけど、まあ慣れたわ」
「慣れたって、」
「このコート意外に温もるのよ」
「へえ」

収録終わりにコンビニで買ってきたであろうジュースをテーブルに備えるたっつんの目の前に腰掛けながら、徐ろにテレビを眺める。ギラギラとしていた。世界は一気にギラギラと新年を迎える体制に入っていて、わたしはただ置いていかれたような切なさに苛まれながら、それを横目に眺めることしか出来ないのに。

「その寝間着初めて見た」
「昨日買いましたもん」
「へー」
「これもなかなか温かいですよ」
「うん。見るからにそんな感じ」
「肌触りもいいし、」
「それに俺も触っておっけー?」
「だめって言ったら、触らない?」
「いや、だめでも触るわ」
「本末転倒な質問」

心がマヌケのように、寂しくなったりする。それはこの季節のせいなのか分からないが、結局わたしがこの冷え込みに追いつかず、ただ温もりに甘えたくなるのだと思う。たっつんの整った顔が見たかった。よければ髭は綺麗に剃られていて、優しく微笑むあなたで心を満たしたかった。

「いつものことじゃん?」
「まあ、そうだけど」
「明日朝早い?」
「遅い」
「えーじゃあ今からいけるじゃん」

薄暗い照明の中でも、たっつんが笑っていることだけは分かった。あなたにこれから身体を預けてしまうことを理解しながら、なんとなく腑に落ちないこの感情をどうしたものかと、曖昧な返事で返すことしか出来ない。

「べつに、それはいいんだけれど」
「ん?」
「たっつんの髭を剃りたい」
「え」
「ちゃんと怪我しないようにするから」
「なにそれ怖いわ」
「いや、わたし器用だしいけると思う」

それらの原因はたくさんあって、わたしの不安定な心情であったり、この目移りする浮世だったりたくさんあって、それでも目の前で解決できるのはたっつんのこの髭面しかなくて。余分な不安をこの手で切り取りたくなった。やがて握るであろう刃先をあなたの頬に宛てながら、冴えるような独占欲に浸りたかったのかもしれない。

「傷とか付けるなよ?」
「まかせて」
「わあ、こわいわあ」
「絶対怪我しないから、信じて」

曖昧な世界の中でしかわたしは生きれないくせに、あなたの信頼が欲しくて絶対なんていう臭い言葉を投げつける。そんなもの結局は結果論だろうと分かっていながら、たっつんの頬先で音を立てる髭剃りにただ感度を増していく。キスするよりも、危うい関係だった。やがてわたしを襲う甘ったるい感覚よりも、あなたに害が及ぶこの瞬間のほうがわたしには価値があって、ただ無防備なたっつんに微笑むことしか出来ない。

「なんか、興奮しない?」
「え、しない」
「えーわたしは楽しいけれど」
「待てよサドとか、だめだからな」

きっとあなたの一寸先をわたしが決め兼ねているというその状況が好きなだけなのだけれど。でもたっつんはそんなことさえ分からずただ、わたしを怖がったまま。わたしはあなたの膝の上に乗っかって、どきまぎするだけ。



@@交わらないだけ





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