心の重さがわたしを足止めする。なにをするのにも心が重すぎて、どうにも立ち上がらせてくれない。

「考え事やめなさい」
「やめてもやめても出てくるんですう」
「じゃあ違うことを考えなさい」
「それじゃあ、また考えちゃうじゃないですか」

お医者さんから「それは心の病気だ」と言われた。それからカウンセリングの人には「心が疲れたんだね」と優しい口調で言われた。じゃあ、あなたは疲れてないの?そんなに目の下にくまをつくって、あなただって疲れきっているくせに「ゆっくり休もう」なんて言われたって、ちっとも心は明るくなれなかった。重さがただ増して、人を見るのさえ嫌にさせるだけ。

「わたしって、こんな人でしたっけ」
「え?」
「こんな弱い子だったのかなあ」

杉田さんは隣で、うーんと唸りながら言葉を探しているようだ。服装をみる限りでは、外は相当寒いようでモコモコのアウターを着ていた杉田さんは少し面白かった。「何がそんなに面白いの」とわたしに問いかけながら、杉田さんも笑ってちょっとその顔は嬉しげにも見えた。

「強い人なんてさ、いないんじゃないのかな」
「そうなんですか」
「うん。そう思うけど」
「・・・杉田さんは、優しいもん」
「え、急に?」
「わたしをこうやって待っててくれているでしょう。甘やかしてくれながら」
「うーん、」
「そんなのを思うと、いっそうわたしだめだなあって思っちゃう。だめだめだって。」
「そんなことないよ?」
「そんなことあります。そうじゃないとだめ」

今だって杉田さんに困った顔をさせるわたしはやっぱりだめな子で、せっかくわたしのところまで来てくれたのに、わたしの重い心に引きずり込んでいくことしか出来なくて情けない。そんな言葉は杉田さんに甘えていることに過ぎないのに、わたしはどうにも出来ずに疲れ切っているらしい心を垂れ流しているだけで。

「だから、考えるのやめなさいって」
「・・・んー」
「杉田さんに甘えちゃだめって誰も言ってないでしょ。だからそんなの愚問だよ愚問」
「ぐもん、って」
「こっちは好きだから来てんだから、だめだめな名前が可愛くて仕方ないわ」
「なんですかそれ」
「溺愛してんだよだから安心しなさい」

大丈夫だよ、なんて杉田さんは言わない代わりに、遠回しにわたしをくすっとさせる言葉を出して、ぎゅうっと包み込んでしまう。それはカウンセリングの先生の疲れきった笑顔よりも熱が通っていて、わたしはその熱のせいで目頭がぐらぐらと澱んでいく。

「すぎたさん、わたし甘えます」
「はいどうぞどうぞ」
「お、おねしゃす」

ぽん、とその懐に飛び込んだ。モコモコのアウターよりも、杉田さん自身の方が何倍もあったかった。ぼとりとこぼれた涙は熱くて、わたしの中にも同じような熱がまだあることに少し安心した。そしたら瞼がだんだん重くなって、やっとぐるぐる巡る考え事を断ち切れたの。




@@甘えたらいくらですか?





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