行き過ぎた答えなんてない。だから、その酔っ払った脳内でわたしを愛してほしいの。

「名前こっち、」
「えー」
「いいから来いって」

手を引かれたらわたしは軽々とあなたの身体に寄りかかるし、掴まれたらもう動いたりもしない。身体に通された腕を、ただ全身で感じるだけ。

「眠いですわたし」
「うん」
「え」
「分かってるけど。だめ」
「んん、だめかー」
「いいじゃん少しくらい起きとけよ」

ふわふわと、どこかに飛んでいきそうな意識が再び戻ってくる。首あたりにあなたの柔らかい髪の毛を感じたから、それがくすぐったいと思って身体を捩ったところで、あなたは離してくれないんでしょう。それはもう知っていることだったから、わたしはどこかで安心していて、全てを預けるような気持ちでいたのかもしれない。

「あー?今日甘えますね」
「甘やかしてんの、逆に」
「わおそう来るか」
「なにいや?」
「いやじゃないですよーう」
「そ」
「ただ珍しいから、なにかなあって」

なんとなく上から手を重ねる。細い指をなぞって、そこにある小さな金属に心が満たされる。こんなちっぽけなものでわたしとあなたは繋がっていて、幸せなんかに溺れちゃうことが出来る。甘やかされたってすぐに許せるように仕組まれて、さらに追い打ちを掛けるみたいにそれを欲されても、わたしはそれに応えられる道筋が、すでにそこにはある。

「寒いから、でしょう」
「え?」
「冷えるからこうやってわたしを抱きしめたのかなって」
「・・・そうそう」
「だったらわたしも寒かったので、ちょうど良かった」
「そうか」
「うん。それに孝宏さんだと落ち着く」
「・・・俺も、うん」

クリスマスはもう終わって、忙しなく人が次の年明けに心を向けていた。その少ない日たちの中で不意に感じる取り残されたような不安は、もう愛する人と分け合うことでしか拭えない。べつにそれを優しさで溶かしたり舐め取るように慰め合う必要はどこにもなくて、ただ寄り添って熱が通い合うだけで十分だった。

「名前」
「はい」
「キスしたい」
「いーですよ、」

匂い、それから熱。それが欲しかったものと合致したとき、初めてほぐされる喜びに出会う。いやでも明日は来て、わたしたちは試される世界の上に投げ出されるのだから、それに息苦しさを覚えるのは仕方がないことでしょう。それ故にわたしもあなたも強く生きれなくて、甘えたふりで誤魔化さないと、もうだめになる。

「幸せって、逃げていくんですかね」
「ん?突然」
「なんか、怖くなっちゃった」

離れないよ、と。このでたらめな愛を誓った指輪だけが言っている。わたしはただそれを拠り所にも出来ないまま、孝宏さんの唇に縋って、もう一度と強請ることで、こぼれ出しそうな愛を必死に拾い集めていた。




@@辻褄くるわせ





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