「・・・わぉ」

すっかり傾く深い夜。傾いたのは時間。真昼にはない泥濘みと微睡みが混ざったところで、俺に絡みつく。

「まてまて」
「なにか、だめなの?」
「いや、それと、あれとこれ」
「わかんない、」
「名前どうしたの?とりあえず、」

降りて。ソファで寛いでいた俺の膝の上に急に跨ったかと思えば、妙に濡れっぽい目でこちらを見て俺から何かを貰おうとする。その目はどこか、不安げにも見える。

「いや」
「なんで?」
「みゆが、見てくれないと」
「なにを」
「わたしを、」

やっぱりよく意味がわからない。読んでいた台本を近くに置いて、解放された手で名前の腰を抱いた。どうしたの?と尋ねたところで、あまり欲しい答えが出そうにないことを案じて、とりあえず状況にあやかることにした。回した手は、細いその身体のせいで、余りが出る。

「見てるけど、かなり」
「どこ、みてる」
「ぜんぶ」
「ぜんぶ?」
「ぜんぶは、ぜんぶよ」

発展しない会話が続く。依然名前の身体は俺の上にあって、最初よりもさらに密着したところに子どものような名前の熱を感じる。彼女の行動の原因を探りながら、今はゆっくりただ時間の経過を待つ。

「そう」
「うん」
「よく分からないけど、まあいいや」
「あ、治った?機嫌」
「悪かったわけじゃないよ、元から」
「えー?うっそだあ」
「ただ下手にいじけてただけ」
「ふうん」
「原因はみゆだよ」
「え」

原因はうんたら、と考えていた矢先に出てきた彼女の言葉に、思わず目が丸くなった。なにかしたっけ、俺。問いかけたると名前の目は、いやに満たされていない視線を俺に送る。

「なにもしてない」
「だよね」
「だからだめなの」
「えっ、」
「なんかみゆとのこういう時間、久々だと思って」
「お、うん」
「相手して欲しかったの。なのに、全然」

長い髪の毛が、頬を掠める。台本やらパソコンやらの仕事にばかり目をやっていたせいか、名前の瞳を見ると少し目が眩む。頭の奥がじわりと熱くなる。それって誘ってるのかなあ、と腰を抱く手を強めると、初めて名前が嬉しそうに目尻を細める。

「それは、ごめんなさい」
「いーえ」
「好きだよ、名前」
「うれしい」

多分今日は星も見えないような夜。更ける夜に引いた手は、とっても白くてびびる。彼女の髪の毛を何度か梳いて、その流れで頭の後ろに手をやった。無抵抗にこちらに寄せられる身体は、やがて完全に俺へと傾いていく。

「俺にも言って」
「えー」
「言ってよ」
「好き、みゆ」
「ん、」
「だいすき」

紡いだ言葉ごと逃さないようにキスをした。深まっていくそれと夜を重ねながら、腕の中に収まる名前がもっと欲しくなった。甘すぎて、離れる術を失う。

「・・・困ったな」

かぶさった身体は、まるでそれを望んでいるようで、おもわず吐息が漏れた。

@@このまま、ずっと





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