あなたが八度七分の声を使う時は、必ずわたしに後ろめたいことがある時。名前、と呼ぶ声に篭った熱がわたしの身体をつたって、やがて支配してしまうのに、時間はそんなにかからない。

「今日泊まってく?」
「んん、どうしよう」
「えー、だめ?」
「そうじゃないけど。良平さんはいいの?明日早いとか、そんなこと言ってなかった」
「言ってたけど、それとこれとは話しが変わるの」

よく分からないけれど、良平さんがわたしの体に触れながら交わした会話だけで汲み取るに、今日は良平さんはわたしを傍に置いときたいらしい。やがて徐ろに抱き合うような形をとって、薄っぺらな布からつたう熱がやけにぬるい。あー、とか意味の無い声を発する良平さんの声がどうにも甘くて熱っぽくて、きっとそのせいでぬるく感じてしまうのだと推測しながら、細いその腰に腕を回す。

「良平さんがいいなら、どーぞ」
「んー。そーする、」
「もう飲まないの?」
「うん。もういい」

言葉の終わりがわたしの耳に入ってきたと同時に、良平さんの唇が重なる。回数を重ねるごとに深く深く、食べられてしまうようなキスを続けながら、体に触れる手がいやらしくわたしをさらけ出そうとする。阻止しようとするその手が、さらに彼を高ぶらせてしまうのをわかっていて指と指を絡め合って、感度のいい女を繕う。

「良平さん、まって」
「またない」
「や、ぁ、早い」
「名前、」

汗ばんだって、恥じらったって、わけもなく触れあって、良平さんはわたしの隅々まで奪おうとする。その片鱗にある嘘にはもう詮索をかけずに、本能のまま、良平さんの体を受け入れた。一番熱いところが、わたしとあなたをつないでいるから満たされる。視線がぶつかってキスを落とされた過程が、あまりにもわたしの理想的で、体はみだりにあなたを欲する。

「好き、」
「ほんと?」
「好き。とても」
「ふうん、俺も」
「ほんと?」
「なんだよ」
「良平さんが悪いの。こんなにされたら、困る」

言葉数があまり多い方ではないから、そのぶん体で伝えようとする。好きという言葉があまりにも乾いていて、耳障りだと感じた。意地悪にわたしをたぶらかす良平さんという存在が、体じゅうに染み付いて離れない。そのくらいねっとりとしたものでなければ、いくらすくいとろうとしたところで砂場の砂のようにさらさらと流れ落ちて、わたしの懐には何も残らないんでしょう。

「困るー?」
「良平さんってば、いろんな人にしてきたんでしょう。こんなこと、」
「なによ突然」
「手慣れすぎてて、なんだかもう」
「何言ってんの」
「体がもたないの。こんなにされちゃあ」
「おまえが可愛いから、こうするんだよ?」

柔らかな質感の髪の毛に手を滑らした。やめてほしい。そんなことをされたらもう、あなたとの行く末を願うことしか出来なくなる。口には決して出せないけど、許されるのならせめて、ずっとずっとわたしに触れて。熱っぽい声でわたしを呼ぶ理由を教えてほしいの。

良平さん、と呼びかける。なあに、と返す声はやっぱり甘くて体の奥が少し疼く。それでも、こだわってると思われないようにわたしから脈絡もなくキスをして、せめてあなたのペースを乱そうと必死になるのです。わかっている?



@@すべりだい





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