きみの行動が読める。その仕草の意図や、その青いアイシャドウをひいた先にどんな願いがあるのかとか。分かっていて、きみを見つめる。見つめると、本当のきみが初めて顔を見せるから。

「名前、」
「ん?」
「きて」
「え、あ、」

ソファの上で、ただ時間が過ぎていることだけ認識できた。太陽がさっさと沈んでしまって、ぴりっとした寒さを運んできて、そのうちもうすぐ冬は来る。寒いです、という名前の手を取って、同じポケットの中に収まって、冷え性だから、と首をすくめて笑う名前を見つめながら、その可愛さを噛み締めるようなあの冬が。

「え、なんですか急に」
「んー、と。気分?」
「きやあ、どきどきしますう」
「んだとー」
「え、ちょっ、櫻井さんまって」

間抜けな声が、すごく無防備だと思う。レストランで取った食事は、どれもすごく美味しくて何かと満たされた。それはきっと名前も一緒で、出てくる料理を見るたびに、それを目に焼き付けようとするその姿は、俺にはもう失われた健気さがあった。

「今日さ、何が一番美味かった?」
「え。この体勢で、それききますか?」
「なんか急に、思い出して」
「あの、前菜にあったウニです。あれはすごく濃厚だった」
「あー、美味かったね。たしかに」
「櫻井さんは?」
「おれ?おれはー・・・うーん。なんだ」
「えー」
「おまえばっか見てたから、あんまり覚えてない」
「わお、」

それだから、彼女の目元に目がいった。その目元にひかれたアイシャドウが青かったから。少しでも大人びた気になるのだと俺に言った名前の言葉を、不意に思い出した。いつになっても慣れないという俺の隣は、そんなに対した価値もないのに、それでも名前は俺を特別だと言う。

「ずるいなあ、」
「え?」
「櫻井さんって、ほんとう、もう」
「なになに」
「・・・いじわるなひと」
「ん。もっと言って」

こっちのものだと主張したくなる。誰かの手に入る前にと掴まえた彼女の手を、いつまでもこのまま収めておきたい。さり気なく輝きを残す、その目元に唇を寄せる。くすぐったそうに、君はくすりと笑う。

「なんか、恥ずかしい、」
「どうして?」
「すごい見られてる、から」
「だれに?」
「櫻井さん、っ!」

見つめると、本当の名前が顔を出す。名前はやっぱり年相応で、キスのたびに火照る彼女はどうしようもなく可愛いし、きっとどう足掻いたところで俺との差は埋まらない。だから、埋めようとしなくたってよくて、ただずっと名前の特別にいれるなら別に他はどうでもいい。悴んだ指先を共有しあって、同じ温もりに浸れるのなら、それだけで。

@@愛しいそれ





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