「あーー」
「ん？」
「しあわせ」
「んふふ、わたしも」
愛するとか、愛されることに、あまり幸せを感じたことがなかった。それでいてぶっきらぼうだったから、多分すごく哀しい子だったのだと思う。優しくほほえんで髪の毛を撫でられるのは、あまり好きじゃない。だけど、嫌いじゃなくなった。
「おれ、さ」
「うん」
「名前のこと、よく分かんなかったんだわ」
「そうなの？」
「うん。なんか気づけばいっつも周りにいないし」
「人付き合いとか苦手なの、」
「まあそうだけど、」
髪の毛を優しくとかれる。それが心地よくなってしまうのは、大輔のせい。耳元であいしてる、と言われてがらになく照れてしまうことも、それがきっと大輔だから。最近は彼なら許せてしまうものが増えてしまって、それでこそ愛に包まれてることに気がつく。
「寒くなったな」
「そうね」
「布団かえないとなあ」
「あ、わたしも」
シーツの中で微笑みあうわたしたちは、ひどく幸せ。それが逃げていかないようにわたしは大輔をだきしめて、大輔はわたしを抱きしめる。いちみりも間があかないように、ぴたりとくっついた身体からは安定した鼓動が聞こえて、それさえも愛おしい。
「いいよー替えるのはおれだけで」
「なんで。わたしも寒い」
「だって、名前がおれんちで寝たら解決でしょ」
「･･そ、うかな」
「べつにいーいやならいいけど」
「いやでは、ないけれど」
「そ？」
じゃあいいじゃん、と。さらりと言われた言葉に胸が跳ねて、わたしは大輔を求めてしまう。彼の吐息が肌に触れるほどの距離の中で、求め合うのは必然的というのだから仕方がない。
「、ねえ」
「ん？」
「きす、したい」
「うん、わた」
返事は唇に吸い取られてしまった。何度も被さる唇がわたしにとてつもない幸せを与えていることは確かで、この空気に包まれたまま消えてしまえるなら、そうなりたいと思ってしまう。キスした後に見つめあうと時は止まり、ただ冷たい風だけが側を通っていく。
「もういっかい、」
「えー、もういい」
「だめ。」
「ちょっと、･･ん」
このまま、全部奪われてしまうのなら、あなたがいい。このまま、全身を蝕まれてしまうのなら、あなたが、あなたがわたしをいっぱいにして。冷たいと思った風が温く感じる間もなく、触れられた手がわずらしいと思う間もなく、わたしをあなたで埋めつくして。
＠＠拭わないやり方
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