失うとわかっていた。だから触れられなかった。この歪な愛のかたちをわたし達は完成させたらいけなかったから。

「なんかさ」
「ん?はあい?」
「避けてる?」
「、ええ?」
「なんだそれ」

欲しいものがありすぎて、時間も身体も足りない。触れた身体はあまりにも厚くて、わたし一人が寄りかかったところで倒れそうにない屈強なつくりをしていた。冬仕様の掛け布団が床に落ちる。いよいよ邪魔になってきた。もう春はそこまで来ているのだ。

「電話出ないじゃん?」
「え、そうですか?」
「うん」
「そんなことない、と思います」
「ふーん」
「だって今日は私が仕事って言ってるのに掛けたじゃないですか?じゃあ宮野さんが悪い、」
「えー俺?」
「宮野さんが悪いー」

不服な顔をして唇を突き出した宮野さんが可愛くて、思わずキスをした。彼の膝の上はぴったりと合うので好き。ここが私の特等席なのだと思わせるほどに居心地が良いし、やがて背中に回される腕によって私の安全は瞬く間に確保されてしまうから。

「いじけてる、」
「いじけてないよ?」
「そーですか」
「でも許してない」
「どうしたら許しますか」
「セックスする」
「、はい」
「名前」
「ん?」
「好き」

一度重なるとなかなか離れないわたし達の唇は、宮野さんが満足するまで続けられる。その間わたしは息をすることさえもままならず、苦しげに肩を握ることしか許されないのだ。唇を離したときのいやらしい顔が好き。薄く開く瞳がわたしを襲うためだけに向けられているのがたまらなく気持ちいい。

「ま、も」
「ぜんぶ脱いで」
「、脱がして」
「んー・・・」

わたししか知らない宮野さんがいる。それと同じように、宮野さんしかしらないわたしがいればいいなと思う。独占欲とか、そういう単純な類いのものではくて、もっと業の深い、汚くてだらしない感情でわたしたちはいま結ばれている。

「?名前、」
「・・・っ」
「顔隠さないで」

愛したことなどなかったのだ。愛したら全て終わる気がしていたから。何も片付いていないベッドの周りが卑猥で、してはいけないことをしているのだと痛感する。吐息のぬるさが、気持ち悪い。状況がいよいよ分からなくなってきた。揺れる髪も胸も腰もぜんぶ、それが宮野さんの逞しい身体によって支配されている。いや、それだけわかっていればじゅーぶんか。

「、あれー?泣くほどいいの?」
「っ・・・好き、です」
「・・・そっかぁ」
「み、やのさんだって」

汗と愛液と、シーツに染み込んでいくのは涙。どうして身体から溢れてくるものは全てこんなしょっぱいのでしょうか。痛むところに当たるたびに、それは滲みていくというのに。

「、俺もだよ」
「っ」
「名前じゃなきゃ」

歪だから完成されない。愛とはそんなものらしい。声が枯れるまで宮野さんの名前を呼んだとして、わたし達が明日幸せになれる保証はなく、だから夜が明けるのが怖い。テレビの中で宮野さんが笑っている。わたしだけの宮野さんが目の前にいる。どうしようもないから、キスをした。笑えるくらいしょっぱかった。

@@唐突にさよなら





ALICE+