「花粉がとんでる」
「そだな」
「え、今日やばすぎでは?目が、目がああああ」
「うわうっさ」

ぐわんぐわんとするあたまが伝えようとするのは危険と警告と打開策。櫻井さんほど有能ではないわたしではありますが、つまらない返ししか出来ない隣の中村ドライバーよりは、幾分かマシだと思うのです。

「薬飲まないの?」
「飲んだら眠くなるじゃないですか注意事項にも運転するなって書いてあるし」
「おまえ運転しないだろ」
「しませんよだって中村さんがお迎え来てくれるじゃないですか毎日甲斐甲斐しく」
「いますぐ降りるか」
「え、なんでです感謝してますよありがとう中村悠一ありがとおおうべくしゅ」
「!!車に鼻水垂らすんじゃねえぞ?!!」

憎たらしいほど過ごしやすい陽気が続くうちにどうやら皆さん平和ボケしてしまったようなので、ここらへんで吹き荒れる冷たく痺れる風は正直ナイスだと思う。令和という美しい年号に充てられて、人類一掃されないかな。汚い事件が多すぎて最近わたしは息苦しいのです。

「うがぐぐ、・・・っ花粉のせいで中村さんに怒られた、ぁ」
「花粉っていうよりおまえな」
「えーだれだれー」
「よし降りろ」
「無理無理殺す気か」

それもこれも花粉のせいだったら、想いの拠り所はできたりするのでしょうか。4月がやって来て、人々は青い顔をしながらわき目も降らず目的地へ歩き去っていく。そんな姿を見ながら、屁でもこいて鼻で笑えるそんな天上人になれたらわたしも幸せだったんですけどね。時としてわたしもその中に馴染んでしまうのだから、人って救えない。

「あー桜だー」
「んー。だなあ」
「お花見したいですね、ぱあっと」
「おまえ花粉症なんじゃないの」
「そうですけどー!その時は薬飲むんで!」
「なんだそれ」
「だって中村さんが運転してくれるんでしょ?」
「・・・そこは決定事項なのね」
「杉田さんとかも呼びますー?んーでもそしたら真礼ちゃんとかも呼べって言われそうそしたら弟も来そう辞めた。むむ、となると安元さん?え、ご飯食べれる呼ぼう」
「隣で一人喋んな」
「っいい?!頭はたいたー!なぜ!」
「信号が赤だったから」
「関係アルンデスカ」

視界いっぱいに映る淡い春の色がやがて散っていくのを知っている。なんだって季節のように極端に変化することでしか主張ができない。わたしはそれが嫌いで、だから変化が怖いし、スタティックなものを欲する。

「べつに誰も誘わなくていんじゃない」
「え。1人で行けと?」
「違うわ。車は出してやる」
「ん?じゃあ中村さんと2人で?」
「文句でも?」
「ないです」
「じゃ、それで」
「あ、はい」

中村さんは前を向いたまま、なんともない顔で運転を続ける。だいぶ様になった運転姿をなんだかんだ半年も見ているわたしって、どんな立ち位置なんだろう。不思議にもなるけれど、あわよくば明日もこの席に座りたいなどと思っているわたしは、何よりよっぽど救えないのでしょうか?

@@懸念





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