世界は一つの終を迎えた

「なまえ、帰ろー」
「いま行く」

いつも同じような熱量で応援をするあいつのせいで、バレーにのめり込んでしまったなんていうのは、未だに誰にも言ったことがない。俺の中だけで通じた、胡散臭いただの事実でしかないことだった。

国「なまえさんもう帰るんすか」
「ごめん!また朝練の時にするから」
金「いや、今くらい俺らでもやれるんで大丈夫っす!」
国「いや、終わらないです」
金「おまえ、」
国「一緒にしちゃだめなんですか?てか、まだ帰らないでいいんじゃないですかー?」
及「ごめんね国見ちゃーん?なまえは今日俺で忙しいの」

持った肩は細くて、華奢だといつも思う。振り返りざまに甘いシャンプーの香りがして、その先に見える整った顔立ちにいつもどきりとしてしまう。常に周りから触れられる視線が煩わしくてたまらなかった。

岩「おーい、さっさと行くぞ」
及「なまえ早くしないと岩ちゃんに怒られるよ、」
「う、うん。じゃあね、国見ちゃん、勇ちゃん」
金「おつかれっす!」
「飛雄も練習しすぎないでねー!」
影「うっす。おつかれしたー!」
及「…いこ、」

バレーを始めた俺達につられるようにして、バレーの世界に入ってきたなまえ。俺らが飛ぶたびにコートの上から笑っている彼女を、いつからか見たくて見たくてたまらなくなった。できれば俺を見て、なるべく俺の傍で。

及「ごめーんお待たせ!」
岩「遅かったな」
「ごめんわたしの仕事が終わらなかった」
及「違う。なまえが国見達に捕まってただけー」
「そうじゃないし」
及「俺がいなかったらもっと遅くなってた。本当、2人には感謝してもらわないとね!」
「岩ちゃん、髪の毛切ってさっぱりしたね」
岩「あ?おー、かなりスッキリしたな」
及「話聞けよ!」

眩しい中学最後の夏はもうすぐ終わり時が来て、なまえと離れてしまう。1年間という長すぎる隔たりが俺からこいつを離そうとする。

「にしてもあっついね」
岩「だなー」
及「アイス食べよう」
「あ、食べたい」
及「じゃあコンビニね」

帰り道を一緒に歩くことや、こうやって寄り道することも、バレーを隣で見てもらうことも段々と減っていってしまうなんて、誰も望んでいないんだ。それなのに呆気なく夕日は沈んで、事実春はもう終わってしまった。

抗ったところですべて打ち砕く、コートで味わうあの時の苦痛によく似た痛みだった。

及「なまえ、はい」
「え、」
及「食べないの?」
「食べます」
及「どう?」
「…美味しい、」

その笑顔も俺が手に入れられる保証は、どこにもないのに。俺はいつも、なまえが好きで、どうしようもなく、焦っていた。





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決して及川さんオチではないですが、烏野で話は進みますが。(中学校時代の一コマ)





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