強く優しい朱

その人は知らない間に及川さんの、というフレーズが俺の中で出来ていた。だから澤村さんや田中さんと仲良く話している姿を見るのは慣れないし、何故烏野に彼女が居るのか解せなかった。まあ、それは俺にも言えることなのかもしれないが。

「とーびお、」
影「!なまえさん」
日「ちわっす!び、びび美人さん!!」
「え、わ、わたし?潔子さんじゃあるまいしやめてよー!わたし、なまえっていわれてます。よろしく日向くん」
日「クラスの友達が言ってたんです!!バレー部のマネは美人が揃っててズルイって!」
「潔子さんの隣は並びたくない!美人過ぎるもん…まあ、わたし烏野に来てまだ4ヶ月くらいだけどね」
影「…東京、行ってたんですよね?」
「そうそう。年明けてやっと帰ってきたよ」

入って早々の部活は二日前に門前払いを受けてしまった。体育館の入口で久々に見たなまえさんは、中学時代よりも増して綺麗になっていて声を掛けずらかった。でも、むこうから俺を呼んでくれて、覚えてくれていたのかと思うと嬉しかった。落ち着いた甘い声に名前を呼ばれるのは前から嫌いではなく、飛雄と言われた時どこか懐かしく感じた。

「にしても初日からやらかしたね?」
影「う…」
日「絶対入れてもらいます!!」
「日向くんは元気だね。大地さん、怒らせるとえげつないでしょう?」
日「それは、やばかったす…」
「早く仲良くなりなよ?わたしも君たちのプレイ近くで見たいし。」
日「そうですか?!」
「うん。…飛雄のトス上げてるとこも、早く間近でまた見たいし」

こっちに来て及川さんと連絡はとったんですか、とか。東京でどんなことしてたんですか、とか。

聞きたいことは色々あった。それは何かしら俺がなまえさんが気になっていたからだと思う。こうやって俺の気持ちに火をつけるようなことをこの人は平然として言ってくる。それはどこか、相手の思考を読み取って操ってしまう及川さんとダブって、幼馴染み同士、人よりそういうことが長けているのだと勝手に解釈してしまう。

影「…言われなくても、またすぐ見れるようにしますよ」

なまえさんは最初から、ずっと及川さんと岩泉さんのフォームを見てバレーを見てきた。今は彼女の目にバレーはどう映っているのだろう。壱重にただかっこいいとかそんな対象などではなく、彼女にとっては美しい勝負の世界であると思っているのではないか。そうであってほしい、と単純に思う。何にも害されることなく、そして単純にバレーで俺を見て欲しいと思っていた。彼女の特別は、如何せん全て”バレー”だったから。

「飛雄は、相変わらずまっすぐだね」
影「はい…?」
「見てて惚れ惚れする。土曜日、楽しみにしてるから」

好きだとかいうのは臭い感情は捨てた方がいい。実際彼女には敵が多すぎる。でも、こうして2人で話しているだけで独占できているようなそんな気になってしまうのは、俺が単細胞と言われるやつだからなのか。

「…おい、練習するぞ」
「お?、おう!!」
「手加減なしだかんな!」
「えええ、?!ちょっ、いだっっ!」

どちらにせよ、ここにいつまでもいるわけにはいかない。早く、早く彼女を俺が連れていくんだ。








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