■ ■ ■


及「なまえー!」
「…及川先生、なんですか」
及「なにそのシラフ感!最近なんで相手してくんないのー」
「そういうのは間に合ってますう。てか廊下ですここ」
及「及川先生悲しい泣いちゃう」
「勝手に泣いて」
及「扱い雑っ」

ぐるぐるぐるぐる。1年が巡ってまたスタートの所に戻る。はあ、と吐いた溜め息を誰かが奪うわけでもなく、月日は瞬きをする間にも変わっていた。

岩「及川うっせえ!」
及「いーわちゃん!なんか、太った?」
岩「…死ね!」
「岩泉先生は受験疲れでそれどころじゃないのよ」
岩「なまえ先生職員室で肩揉んでくれね?」
「はあい喜んで!」
及「なんで?岩ちゃんへの扱いが違う!」

騒がしくて落ち着きがない空気は新学期の醍醐味であって、教師はそれに充てられても淡々と職務をこなす。なまえちゃーん、となんでもない男子生徒からの呼び掛けに軽く目配せをすると、そっち側から若い声が上がった。前までは手を振っていたんだけど、もう面倒なので今は暫くしていない。

及「モッテモテー」
「んー?嫌味ですか及川先生」
及「いや事実じゃん!」
「モテる必要がないし」
岩「…黒尾いるからな、」
「まあ、」
及「え、クロちゃん?」
「お世話になってる気はないんだけどね」
岩「見てて目も当てられないくらいだけどな」
「え、うそ」
及「えまってクロちゃん?!」
黒「…俺のなまえになんか用ですかい?」

まるで王子様のような登場だと可笑しなことを思う。相変わらずの黒髪は先日一緒に美容院に行って少し短くなっていて、授業中に女子生徒がこそこそ話していたのを思い出した。 そういう対象として彼が見られているのが不服だが、その髪の毛は私の要望だったので、なんだか愉悦感に浸らなくもない。

「…そういうのいいから」
黒「なに照れてんの 」
「照れてない」
及「は、え?頭がついていかない」
岩「一つ言えるのはあれだな、お前は大変時代遅れだ」
及「な、なに?」

ひら、と桜が散っていた。まだお花見はしていないと逸る私の心は誰にも分からない。それと同じでこの心に眠るいざこざも愉悦感も誰も知らないし、お互いが抱く感情も本当のところは一生分からずじまいなのだ。だから、欲しいと言われたその言葉に応えた。そうして私と鉄朗は結ばれているし、いずれ来る時があれば私はまた違う誰かのものになっているのかもしれない。でも、それは今じゃないな、と鉄朗の匂いに包まれながら陳腐なことを思う。

松「なまえセンセ、」
「はーい?」
松「ペン、落ちてましたよ」
「、ありがとうございます」
松「いーえ」

受け取った薔薇の細工が施されたペンは、その昔に一静からプレゼントでもらったもので、少しだけ胸が軋んだ。でもそれに気付かないふりをして、一静も昔と同じ余裕のある表情で笑った。時間がすべて解決させる。受け取るのも振り払うのも、愛し愛されるのも、きっと、全ては相違なく

木「なまえ!バスケしよ!」
「はー無理、突然」
木「じゃあバレー!」
「なに本業を入れ込んできたの、」
木「ええだめ?」
「経験者で集まれば」
黒「やってやんよお木兎ちゃん」
天「あれれお呼ビ?」
及「なまえが応援してくれるならする!」
黒「いや、なまえは僕のですから及川先生」
及「俺は!認めてない!」
岩「夜久とか花巻達もしねーの」
「あ、じゃあ探してくる。私みてみたい」

やがて全部覚めてしまえ。ほとぼりは未だは熱っぽく、何時までも私の身体の隅に置いたまま、最後に私はなんでもない幸せを追い求めていく。
普遍的なこの日常の中で。

~2017.1.31 fin.


ほとぼりは覚めて日常へ




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