「なまえ、」
「蛍、?」
「ごめんおまたせ」
「ううん、全然待ってないよ」
長い長い冬は、会いたいを加速させる。寂しさばかりを募らせて、目の前に温もりを与えてはくれない。
「お疲れ、遠征」
「え、知ってたの」
「うん。影山くんから教えてもらった」
「あーあいつか…」
「言ってくれてもいいのに、」
「言っても何にもならないでしょ」
「そうかなあ?」
「そうだよ」
イルミネーションも何も無い田舎の住宅街。蛍は頭がいいから色んなことに冷めている。それはきっと仕方のないことなんだろうけど、頭の足りない私はどうしても求めてしまう。こまめな連絡なんて、そんな烏滸がましいことは思わないけれど、1秒でも長く一緒にいれたらなんていう思いはいつだってあるんだ。
「…手、」
「ん?」
「寒くないの」
「す、こし?」
「…、」
「、ありがと」
ぶっきらぼうに出された手。白くて細かった手は、いつの間にか筋肉がついて頼もしくなっていた。握りしめたその手を強く握り返してくれるなんてことも無く、蛍は当たり前みたいに私の手ごとジャージのポケットに突っ込んだ。どんなに痛そうなアタックもこの手で彼は止めるんだ。その時に見せる高ぶった蛍の表情は、見ていてとても嬉しくもあるけれど、同時に切なくもある。やっぱり私じゃあダメなのかなあ?とか、嫌でも思っちゃうから。
「蛍は、大きくなった?」
「突然?」
「なんか、そんな気がしたもん」
「まあ、少し伸びてたケド」
「すごお」
「なまえがどんどん小さく感じるから面倒くさい」
「め、めんどう?」
「うん」
そのメガネの奥で何を考えているんだろう。小さくて大きい闘志を燃やしてばかりで、一瞬でも私に会いたいなんて思うのだろうか。明日はクリスマスなんだよ、なんて言ったところで、きっとまた面倒とか言われてしまうんだと思う。
「だってさ、」
「うん」
「キスも、しにくいし」
寒過ぎる夕暮れのアスファルト道を、立ち止まって蛍が視線を合わせる。といっても私はいつだってあなたを見上げていて、到底同じところには並べられないのだけれど。
「僕がいなくて寂しかった?」
「どうして?」
「ずっとそんな顔してるから」
「ほ、ほんとう?」
「うん。なんだか物足りなそうな顔」
「そ、んな…、」
距離が少しずつ縮まって、それからキスをした。夕日と月に照らされて、ちょっぴり恥ずかしかった。それでも蛍は普通みたいな顔をしているから、少し苦しくなって、強請るみたいに黒いジャージの裾を掴んでしまう。
「明日は」
「え?」
「どうしたいの」
「…会いたい、です」
「俺、部活休み」
「じ、じゃあ」
「うん。どこか行きたい?」
会いたいと何度も願ったところで、会ってしまえば実際距離は縮むよりも寧ろ心配事が増えて、すれ違ってしまうようにも思う。それでも、蛍はいつだってお見通しみたいに私の心を洗い出して、もどかしさを消し去ってくれる。あなたと一緒ならどこでもいいんだよ。いいから、ただそばにずっといたいの。
「ど、どこでも!」
「ふうん。じゃあ勝手に選んでもいい?」
「いいよ」
「分かった。…嫌がんないでね」
クリスマスなんていらないくらいに、いつだって私はあなたが好きだし、なんでもない日常にだって名前をつけれるくらい私は蛍が好きだよ。大切なあなたをただ大切に想えるだけそれだけで、私は幸せなのに。
「会えるなら、どこでもいい」
「…あっそ」
「うん、?」
「(、可愛い)」
@Can't wait 'til Christmas ーーー宇多田ヒカルより