はじめまして神様

「お賽銭決めた?」
「あ、いくらだっけ」
「えと、それは決まってないよ」
「うーん迷いどころだなあ」

嘘みたいに一年が終わっていく。俺はというとなまえと手を繋いで、初詣の列に並んで新年を迎えたところだった。白い息が、寒さを知らせる。肌で嫌でも寒いなんて分かるというのに。

「5円は入れておきたいよね、御縁だし」
「語呂合わせ?」
「うん。…馬鹿だと思った?」
「そんなこと思うわけないじゃん?」
「なーんかその顔ムカつくなあ」

白いニット帽を被ったなまえは、さっき買ったばかりのココアを頬に当てて暖をとっていた。いつも見ているというのに、その幸せそうな顔はどこをどう見ても可愛くて、何気なくその赤い頬を指でなぞってしまう。大きな目をさらに大きくさせて、なまえはどうしたのとこちらを向く。

「ここ、赤いよ?」
「ええ。温め過ぎた?もしくはチーク」
「ち、チーク?」
「お化粧したのー。スッピンで神様にお願いごとはおこがましいかなって」
「えー、そのままでも可愛いよ?」
「徹の基準は必要ないの」
「なんで?!彼氏だよ!」
「彼氏が神様じゃないし」

新年は音も立てずにやって来たのに、彼女と居ればそれで全部納得がいく。バカ騒ぎをする集団も、こたつでテレビを見ながら年をまたぐ家族も、おみくじで一憂してる女子高生であっても、なまえと手を繋いで見る景色は違う。呆れるような事だって、ある程度の幸福を願って見れる。キラキラとまでは言わないけれど、世界はどこか明るい気がする。

「お願いごと決めた?」
「ん、決めてるよ」
「えーなになに」
「ひーみーつー」
「なにそれ。イケズ、」
「うっさい。ほら、前動いた」

神社にどんどん近づいて、ついに自分達の順番がくる。紐をしっかり握って、ちゃらんちゃらんと乾いた鈴の音をなまえと一緒に鳴らして、ぱちんと手を合わせる。神様神様、なまえに化粧させた烏滸がましい神様。

「(なまえとずっと一緒にいれますように。そしてトビオにそのうち不幸が訪れますように!)」

バレーの事は願いには入れない。それを願った所で叶えるのは自分の実力なので、端から願うのはみっともないのである。腐った根性から言わせてもらえば、一つ下のバレー馬鹿の不慮の事故を願ったり願わなかったり。

「徹お願いごと言った?」
「もちろん。なまえ長くなかった?」
「うん、思いのほか欲張りしちゃった」
「貪欲にいったのね」
「まあ、本当に叶えてくれるのは1個だけでいいんだけどね」

粋な計らいで配られていたおしるこを見つけるや否や、一身にそれに駆け寄る彼女の後ろ姿を追いかける。人ごみの中でも、見失うことなくその姿はあって、言わずもがな愛だと思う。小さなその身体を後ろから抱きしめて、1口もらったおしるこは、余りにも甘くてつい苦笑いをした。

「おしるこ飲みたいってお願いでもしたの?」
「え、なんで知ってるの」
「まじで」
「うそうそ。ダイエット出来ますようにって」
「え、真逆のことしてない」
「うっせ。あと、徹が私に飽きませんように」
「んん?飽きるう、?」
「うん。ポイ捨てされませんようにって」
「そんなことしないよ」
「私は、しないだろうけど」
「いや、俺絶対そんなことしないからね」
「え、そんな強気で言っちゃう?」
「強気も何も本気、ね」

なまえの手を塞がらせている飲み物たちを奪い取って、細い肩に顔を埋める。今キスしたら2人ともあずき臭いかな。それでも柔らかいなまえの唇が堪能できるならそれでいい。

「ちょっと、人いる」
「ん、なまえが俺を信じないバツ」
「なんだそれ」
「もう、なんで分からないかな」

全部が全部、君なんだよ。神様なんてどうでもいいのに、君といれるから受け入れられるんだよ。おしるこなんて君以外と飲む気にもならないんだよ。神様と俺を引き合わせているものさえ、君なんだよ。

「、おしるこ味だね」
「んだね」
「人、増えてきた」
「うーん、帰ろうか」

俺の右手に、すっぽりとなまえの左手が嵌る。どこまでも正確で、どこよりも深く。
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