ハートフルストロベリー

不意に寂しくなります。先の見えない中で、私は何ぞやの苦しみにもがきながら、2回程あなたの名前を呼びました。到底聞こえるわけもない、細くて痛々しい音色でした。


「どうしたのか?」
「…ううん、何でもない」


きっと部屋が暗すぎるのです。すぐに日の入りしてしまうこの季節は嫌いでしかないのに、夕日の向こうに早く消えろ言わんばかりに三日月は浮き出て、その後に暗闇が街を塗り替えてしまいました。気温が下がって、体が冷たくさせる。そう思うと、心まで冷たくさせる。投げ出した四肢の先が痛くなって、ああこのまま死ぬのかしらと予感させるのです。


「隼人、」
「ん?」
「そっちはどう?」
「ああ、変わらずめんどうだぜ」
「そう。聞こえてくるわ」


電話口からは遠いイタリアに向かった彼の周りの騒がしい街の音が聞こえて、胸が痛く焦がれます。会えない、そんなことくらいとっくに分かりきっているでしょうに。


「おまえ、なんかしてんの」
「わたし?なんにも」
「だろうな。周りが静かすぎる」
「分かりきっているじゃない、」
「とりあえず、窓くらい開けたら?」
「だって寒いもの」
「いいからさっさと開けろよ」
「…え?」


もう、隼人はずるい程に優しいのです。カーテンを開けると、見間違えるはずもない銀髪姿があって、口元がもどかしくも私の名で動きました。なまえ。心の中にそっと声が聞こえて、その瞬間心に火が灯ります。痛いだけだった胸に、明るい温もりが生まれるのが分かるのです。


「、どうして?」
「とっくの昔に仕事は終わらせたんだよ」
「そうなの、」
「あ?お呼びじゃないか」
「お呼びだったわ、もう少しで死ぬところだった」


電話の声だけじゃ物足りない。そういった想いを多分隼人は紡ぎとるのです。日はもう暮れているけれど、あなたがいるなら。それは温かくて、輝く、私の全て。




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