赤い頬に少しの白

「開けるよ?」
「ええー、すとっぷ!」
「またあー?」
「だって怖いもん!」
「それもう何回目よ」

クリスマスなんて無くなればいいと思う。聖夜とか甘い夜とか、恋人と過ごしてないと可哀想だとかそんなの誰が決めたのか。及川は今頃彼女と一緒なんだろうなあ。まっつんも年上のお姉さんとデートだとか言っていた。なに、それじゃあ幼馴染の部屋で屯う私は、余り物?

「せーの、で開けて」
「分かったって」
「絶対貴大変なことするつもりでしょ」
「したかったけどお前ビビりすぎて、やる気失せてますから」
「え、やる気失せちゃダメ」
「もういいからやっていい?」

耳にキラキラするものを付けている姉がずっと羨ましかった。とりわけていうと、未だ何も手にしていない私が惨めったらしくなって、強がりみたいにピアッサーを買った。ピアスは奇数開けると人生が変わるらしい。目の前の貴大は呆れ顔で私の願いを承諾してくれた。多分それは私の顔があまりにも半べそで、不憫に思ったからだろうと想定する。

「や、優しくしてください」
「おー分かってる」
「…やっぱり怖い」
「痛くねえって」
「なんか、会話が、不純」
「黙れ」

貴大とずっと睨めっこをしている。ピンク色の髪の毛を良く似合わせてるなあ、と感心していると、じゃあ開けていい?と催促された。いざとなると全く踏ん切りがつかない。待ってと連呼する私を見かねて、すると貴大はもう開けなくていいんじゃない、と苦言を呈すのだ。

「そこまでして開けたいの」
「う、うん」
「…でも開けねーじゃん」
「だって痛いの怖いもん」
「はあ…じゃあ痛くないって思わせればいい?」
「え、あうん?」
「先に痛みがあればいいんじゃない」
「待って何をする気な」
「ちょっと耳借りる」

さらっと髪の毛を掻き分けて、丁度耳輪辺りを貴大の指に掴まれた。キスされるんじゃないかと思った。でも貴大は何ともないような顔をして私の耳朶に近づいた。耳が瞬間に熱くなる。生温い吐息がかかって、どきどきしてしまう。貴大のくせに、胸がどどどと五月蝿く鳴る。

「た、貴大」
「ん?」
「まっ…」

結果的に貴大は私の耳を噛んだ。噛まれたのを理解するのに時間がかかって、チクリとした痛みに全く反応ができなかった。随分と時間が経った気がする。離されて、こちらを見た貴大の顔は少し色っぽくて、それにさえ反応ができなかった。

「な、なにして…!」
「痛かったー?」
「痛くは、ない」
「てかやっぱり飽きたわ」
「え」
「てかもうよくね?」
「は、は」
「おまえさ、クリスマスにヤケになって何したいの」
「や、ヤケになってなんか!」
「俺がいんじゃん、」

そういえばあの時本当に羨ましかったのは、ピアスを開けた姉より、それを見て綺麗ですとふ抜けた顔で言った貴大にムカついて、そう言われた姉がどうしても羨ましくなったことを、今になって思い出した。
貴大は、俺がいると言って気だるそうな目を私に向けた。かちり、と視線がぶつかった。思考を停止させるみたいに、貴大は私に目を逸らさせなかった。

「ま、待っ」
「もう待てない」
「な…、」

勝敗がもう目に見えてしまっていた。夕日がもう沈みかけていて、オレンジ色の空が後ろに広がっていた。それより何より、目の前のピンク色が私のすべてを奪っていく。
好きだよ、なんて、そんなのずるい。

「ば、か」
「なまえもな」
「は?」
「**   」

最後の言葉は曖昧に夕日と一緒に溺れていく。
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